18話
―どうする?迅雷を使用すれば問題ないか?
だが、レイスは人とは違い、短距離転移を使用することができたはずだ。通常の敵であれば外すことはほぼないが、敵はサラマンダーのように的が大きいわけでもなく、万が一、迅雷を発動する直前に転移されてしまえば、大きな隙をさらすことになる。
ここは迅雷を使用するのは最終手段として、他の方法をまずはベストプランとして持ってくるべきだ。
―考えろ。
相手はこんな序盤で現れるような相手ではない。今のハーヴェルくらいであれば、難なく仕留めることができる怪物である。決して油断はできない。
やはり、ここは魔力集中で倒すことを考えるべきだ。問題は、どうやって不完全なそれを使うか、ということである。
―レーダー
俺は目を閉じ、決してレイスから決して意識を離さずに、自らの手足に魔力を集中させる。
バリバリバリッという音が聞こえる。
――どう出る?
―と。
レイスの姿が消えた!移動先は俺のすぐ脇!
「食らいやがれ!」
俺は右手を突き出す!!
――ズブッ
という鈍い音がする。すぐに俺は縮地を利用して後ろに下がる!!
そのまま俺のいる場所に敵はすかさず刃を突き出していた。
「あっぶねえええ。」
ふうー。
大きく息を吐く。
貫手は確かに敵を貫いた。手応えもあった。だが、やはり攻撃力が今一つなのだろう。
相手は平然としている。
もっともっと魔力を手足に集中させる必要がある。しかし、意識はレイスから離してはいけない。
―イメージしろ。
目を閉じ、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。
―と。
自身の体に魔力とは別の流れがあるのを感じる。
――これはもしかすると、闘気か?
手に闘気と魔力を集中させる。未だ意識はレイスから離してはいない。
右手からキィィィィンという音が聞こえる。
俺は一歩レイスに踏み出す。
おそらく敵は、俺に場所が気取られているのが分かっているはず。
―――
レイスが一瞬で転移した!気配だ!右!!
俺はそのまま5本の指をぴたっと閉じ、鋼よりも強靭なほどの手でもって敵を貫いた!!!
ズバアァン!!!
レイスはそのまま弾けて消えた。
凄まじい威力だ。闘気と魔力を重ね掛けしたのだろう。
俺の通常の貫手はこれほどの威力は出ない。
あたりにはこれまで強敵がいたとは思えないほどの静寂である。
「・・・鍛錬をしていて良かった。」
少しでも鍛錬を怠っていたのであれば、ここを乗り切ることはできなかったかもしれない。
やはり日ごろの鍛錬こそが何よりも重要なのだ。
そして、今回の戦闘ではいくつも得るものがあった。
―格上との戦闘経験。
レイスは中盤以降に現れる強敵である。通常攻撃は効かず、倒すためには範囲魔法を使うしかないが、俺は範囲魔法を使用することができない。だが、そんな相手にもレーダーを上手く使うことで、攻撃を当てることができた。
また、迅雷を使用しなかったということも大きい。迅雷頼みでは、大きな隙を相手に晒してしまう他、攻撃のレパートリーが非常に限られてくる。だが、今回の戦闘により魔力集中と闘気を上手く使用できたことで、俺の戦闘力の底上げにつながることは明白だ。
とはいえ、課題もある。今回、十分に闘気と魔力を集中させることができたのは、レイスは転移する時以外では動きが緩慢であるという性質が大きい。
たとえば、ウルフ系のようにずっとこちらを追ってくる性質の魔物では、このような時間はないかもしれない。今後のことを考えれば、もっと素早く闘気と魔力を集中させる必要がある。
「そのあたりは今後の大きな課題だな。」
俺はあたりを再びレーダーで確認する。付近にはボアもフライングバットもおらず、離れに戻ることにする。
邸宅に戻るころには、日はすっかり暮れており、別邸の前にヘイムの家紋がついた馬車が止まっているのが見えたのだった。




