17話
休日の昼ごろ。
既に朝のランニングと、昼飯、そして鍛錬前の柔軟は済ませてある。
今日は休日ということもあり、昼間からサンドバッグを相手にできるが、あえて今日はサンドバッグを使用しない鍛錬を行う。
闘気の方は相変わらず使用できない状態だが、魔力集中の方はいつの間にか、ある程度意識するだけで集中した状態が持続できるようになっていた。
―そろそろランクマッチが近い。
ランクマッチまでの期間を一つの目標に、魔力集中を持続した状態で、縮地と貫手の精度をできるだけ高めることにあった。
もちろん、ランクマッチで実際に縮地と貫手を使用するつもりは全くない。
もし縮地と貫手の精度が高い状態でヒューヴァを相手にすると、相手を殺めてしまう危険性がある。
ランクマッチはこれまで同様、サンダーボルト一択で挑むつもりだ。
まずは魔力を集中させない状態で。
―縮地
前足をわずかに後ろへずらし、後ろ足で大きく前に踏み出す。
魔力を使用しない状態でも、縮地を使用すると、急いで移動するよりもずっと速く移動できる。
次は、魔力を集中させた状態で。
―縮地
――ジュッ
先ほどと同じ動作で移動したが、前に踏み出した後ろ足の着地点が黒く焦げてしまった。
床に黒い足跡がつく形になった。
「この足跡は不格好だし、火事になりかねないか。」
―しょうがない、森に向かうか。
結局いつもの森にやってきた。
「レーダー」を使用するが、辺りにはボアもフライングバットもいない。
ボアはともかく、フライングバットは夕方になると姿を現すだろうから、それまでは縮地と貫手の鍛錬を一人で行うことにする。
さっきの感じなら、靴も靴下も脱いでおいた方がよいかもしれない。
そうして、素足になる。
まず、足に魔力を集中させて。
―縮地
――ジュウッ
すると、思ったよりも高速で動くことができた。
次に、手に魔力を集中させて。
手の周りに少しばかり静電気が走っている。
―これならいけるか?
俺は近くに生えているある程度の大きさの木の幹に向かって貫手を繰り出す!
―ズン!
という音がして、手が少し木の幹にめり込む。
まだまだ縮地と貫手を鍛えることができるはずだ。
より瞬時に移動し、この木の幹くらいは貫手で完全に貫けるようにしなければならない。
手足に魔力を集中させ、戦うこの戦法は驚くほど魔力効率がよい。体力の持つ限り動くことができるし、魔力によって強化されているからか、疲労の度合いもかなり小さい。俺本来の戦闘力に、魔力による強化が持続的にされた状態ということもできる。
それは、いずれ闘気を自在に使用し、俺本来の戦闘力を高めることができれば、魔力によって更に強くなることができる可能性があるということである。
「鍛錬のし甲斐があるな。」
そう言って俺は人知れずニヤリと笑う。
俺は縮地と貫手の鍛錬を繰り返す。
木の幹は3度貫手を行うことで貫くことができた。
しばらくすると、日が傾き始め、フライングバッドが姿を見せ始める。
―狩りの時間だ。
俺はあえてフライングバットの群れの中に突入し、
魔力集中をさせた手足を使って、突きと蹴りを繰り返す。
「キッ!」「キキッ!」
的確に攻撃を命中させ、そのフライングバットを狩っていく。
――と。
急に寒気がした。
なんだ??何がいる??
だが姿が見えない。
「落ち着け。」
そう言って俺は目を閉じる。
―レーダー
すると、すぐ近くに人の輪郭をした何かが浮かびあがった!
―防御を!!
何か刃が突き出されてきたのを咄嗟に左手で防御する!
ブシュッ
刃が俺の左腕を切りさき、血が流れる。
「痛ってえな!おい!!」
だがそちらを見ると、誰もいない。
――まずい。
咄嗟に目を閉じ、レーダーを放つ!
すると、今度は真後ろにいた!!!
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は絶叫し、まさに後ろから刃を突き立てようとしてきた化物に対して回し蹴りを放った!!!!
ズンとした手応えがあり、その化物は後ろに仰け反った。
―命中だ!
無意識のうちに足に魔力を集中させていたようだ。
しかし、敵は平然と態勢を立て直す。
姿を現したのは、黒い布を被った化物で、その顔は目と口の部分にぽっかりと黒い穴が空いている。
・・・ホラーかよ。
冷や汗が出る。
姿を現したのはレイスだった。




