16話
「やあ、イシュバーン。」
ん、この声は?講義が終わった後、誰かが俺に話しかけて来た。そちらを見ると、
「―ヒューヴァか。何か用か?」
ルディ以外のやつが話しかけてくるのは珍しいことだ。
「次の学院のランクマッチだけど、対戦相手は僕だよね?」
「ああ、そうだったな。」
「まさか僕に勝てると思っているのかい?」
―何だこいつは。
「急に何を言い出すかと思えば、そんなことを下らない気にしていたのか。」
「下らないことだって?おまえ、本気でこの僕に勝てると思っているのか?」
「そもそも、俺はランクマッチとやらに興味がないからな。」
これは本音だ。ランクマッチで勝ったところで、得られるものは、名誉と賞金と上位下位問わず貴族への求婚の権利でしかない。
「イシュバーン、おまえ、ハーヴェルからアイリスを取り戻したいと思わないのかい?」
なるほど、そういうことか。ヒューヴァはアイリスが好きだ。つまり、ランクマッチに勝って、ハーヴェルにモノにされつつあるアイリスを奪い取りたいのだろう。
「婚約破棄という事実がある以上、アイリスは俺のものではない。そもそも、アイリスはハーヴェルに惚れているのだろう?ならランクマッチに勝ったところで、俺は他の女をアテにするだろうさ。」
「・・・気づいていたのか、イシュバーン。」
「まあ、あれだけハーヴェルと一緒にいると分かるだろう。そして、ヒューヴァ、お前はランクマッチに勝ってアイリスに求婚でもするつもりか?」
俺はニヤリと笑ってヒューヴァに言う。
「――その顔をやめろ、イシュバーン。」
気色ばむヒューヴァ。
「俺はお前の恋路を邪魔するつもりはないから、心配するなよ。」
「・・・どういうつもりだ、イシュバーン。」
「そのままの意味さ。」
「この僕を相手に手を抜くとでも言うのか!?」
ますます怒り出す。
――面倒くさいことこの上ない。
「まったく、ヒューヴァ。お前は俺にどうして欲しいんだよ?」
「どうしてって・・・。」
戸惑うヒューヴァ。
―と、そこへちょうどアイリスが通りかかる。
「おい、アイリス、止まれ。」
「―何よ。」
冷たく言い放つアイリス。
「こいつがお前に用があるらしい。じゃあな。」
そう言って俺はさっさとその場を立ち去ることにする。
「ま、待てよ!イシュバーン!」
―聞こえない、聞こえない。
「――ってことがあったんだ。」
今日はルディにならって、サンドウィッチを食うことにした。
サンドウィッチもなかなかの味だ。
「ヒューヴァも災難だったなあ。」
「何だ、ルディ。人を災害獣か何かのように言って。まあ、俺をドラゴンに例える気持ちは分からんでもないが。」
「一体何をどう考えれば、そんな解釈になるんだ、イシュバーン。」
ルディは頭を抱える。
「ヒューヴァは災難だったのだろう?現に、ヒューヴァのやつは俺と戦うのが怖かったのだろう。」
「あのな、イシュバーン。ヒューヴァがお前に負けるなんてことはありえないんだ。むしろ、俺たちより実力がずっと上のヒューヴァをどうやったらそんなに怒らせることができるのか、俺には分からない、イシュバーン。」
「何、簡単なことだ。ルディ。おまえも俺みたいになればよいのだ。」
「また、そんなことを言う。・・・もしかして本心なのか?」
「本心以外何があるというんだ、ルディ。」
「いや、俺が悪かったよ、イシュバーン。」
ルディは頭を抱えたままだ。
「分かればよいのだ。分かれば。」
「はあああああ。」
いつものように屋上にルディのため息が木霊するのだった。
「そういえば。」
「どうしたんだ、イシュバーン。」
頭を抱えたまま答えるルディ。
「―ところで、お前はプリムに勝てそうなのか?」
俺は気になったことをルディに訊ねる。
「・・・」
しばらくの間頭を抱えているルディだった。




