15話
魔法学院が終わり、夕方。
俺は久しぶりに森に来ていた。
闘気の方はひとまず置いておいて、まずは魔力集中を高めるつもりだ。
ある程度手足に魔力を集中させることができれば、次にやるべきことは、実践だろう。
幸い、この森はボアが多く、鍛錬相手に困ることはない。
ただし、サラマンダーが出た場合に備えて、マナポーションの準備は必要不可欠であるが。
少し離れた場所にボアを見つけた俺は、まず足に魔力を集中させ、ボアとの距離を詰めていく。そうして、ある程度近づいたところで。
「縮地」
前の足を半歩下げ、後ろ脚で大きく抜く走法であるが、タイミングよく魔力を集中させることで、素早く移動することができる。
そうして短時間でボアとの距離をつめ、同時に手に魔力を集中させ―
「貫手」
5本の指をぴったり揃え、ボアの腹目掛けて右手で貫く!
「ブオオオオオ!」
ボアの腹に大きな衝撃を与え、ボアが吹き飛んでいく。
吹き飛んだボアのところまで行き、倒れているボアの様子を見る。
ちょうど貫手が当たった場所は黒ずんでおり、その場所からボアが感電したのが分かった。
ボアを倒すには十分であるが、このレベルではまだまだ実践で使用できるとは言い難い。
まだまだ移動時間も長く、貫手のキレも甘い。もっと早く縮地を行い、もっと切れ味のある貫手を放つことができるはずだ。
―鍛錬あるのみ。
俺はボアをズタ袋に入れる。今日はステーキか。
俺は目を閉じ、「レーダー」を放つ。
どうやら感知できる範囲にいるのはフライングバットのみ。
―飛行する相手に適格に攻撃を当てていくということも鍛錬にならないか?
あえてフライングバットに近づいてみると。
「キィキィ!」
縄張りに侵入した俺を排除しようと、フライングバットが襲い掛かってくる!
「ッシ!ッシ!!」
俺は意識を手と足に集中し、突きと蹴りを交互にフライングバットに命中させていく!
「ギャッ!」
拳が当たり、蹴りが当たる度に、フライングバットは次々と感電していく。
驚いたことに、集中力が必要であるものの、魔力を集中させた方が、フライングバットに命中させる確率が高い。
その後も、森でフライングバット相手に、魔力集中の鍛錬を行うのだった。
離れに帰ってきたときには既に日が暮れていた。
館を見ると、セバスがその前に立って俺を待っているようだった。
「お帰りなさいませ、坊ちゃん。」
「ああ、セバスか。どうした?」
「ええ、例のサンドバッグの修理が完了しました。後、本日の夕飯の時刻ですが、館にいらっしゃらないようですので、こちらでお待ちしておりました。」
「すまん、セバス。今日は森に鍛錬に行っていた。」
「また森へ鍛錬を・・・ですか。」
「ああ、待たせて悪かった。次に森に行くときは館にその旨を書いた板をかけておくことにする。」
「承知致しました。ですが、くれぐれも無理をなさいませんよう。」
「ああ、分かっている。今日は別邸の方で食べよう。久しぶりにボア肉をステーキで食いたい。」
そう言って俺はズタ袋に入ったボアを見せる。
「なんと・・・!みな喜びましょう!!」
セバスも嬉しそうだ。それくらい新鮮なボア肉のステーキは美味いんだ。
「ああ。ちなみに、親父殿とイシュトはこちらにいつ戻ってくるんだ?」
「今週末ですよ。ご当主様とイシュト様に早く会いたいですか?」
「少なくとも、あの二人は俺の顔など見たくもないだろう。」
そう言って俺はニヤリと笑う。
「・・・そうでございましょうなあ。」
何とも言えない顔をするセバスだった。
別邸に戻ると、さっそく調理室に向かう。
「おや、坊ちゃん、どうされましたか?」
料理長が顔を覗かせる。
「こいつを狩ってきた。今夜はステーキにしよう。」
そう言ってズタ袋の中身を料理長に見せる。
「おお、さすがは坊ちゃん!!」
その日の遅めの夕食は絶品であったのは言うまでもないことだった。




