14話
「なあ、イシュバーン。ついにランクマッチの組み合わせが発表されたのを見たか?」
いつもの屋上でルディが言う。
「そうなのか?」
もうそんな時期か。俺の初戦の相手は原作通りなら、ヒューヴァだろう。そして、ルディの相手はプリムだ。
「ああ。イシュバーンの初戦はヒューヴァだってな。ハーヴェルほどではないだろうが、ヒューヴァも強いはずだぜ?」
「ああ、だがこのイシュバーンには敵うまいよ。」
自信満々で俺は答える。相変わらずホットサンドは美味い。だが、季節的にそろそろ普通のサンドウィッチの方がよい気がしてきた。
「―またそんなこと言って。それでこの前もハーヴェルに圧倒されたじゃないか。」
「そんなことは既に忘れた。俺は先を見据える男なんだ。」
「・・・イシュバーンのそういうところ、本当に羨ましいよ・・・。」
何故かルディが遠い目をして言う。
「簡単だ、ルディ。おまえも俺みたいになったらよいのだ。」
「それが出来たら苦労はしないんだよ、イシュバーン・・・。」
「それで、何が言いたいんだ?」
ルディにもどかしさを感じ、先を促す。
「俺の初戦はプリムなんだ。」
「なんだ、ルディ。プリムぐらいさっさと倒してしまえばよかろう。」
「さっさとって・・・。イシュバーン、おまえ、プリムに勝てるのかよ?」
ようやくサンドウィッチにかぶりつくルディ。
「無論だ。なんたって俺はイシュバーンだからな。」
単純な魔法の勝負であれば、当然俺よりもプリムの方が強いだろうが。
「いいじゃないか、イシュバーン。お前の相手はまだヒューヴァで。負けても誰も何とも言わないだろうさ。だがよ。イシュバーン。俺の相手はプリムだ。あのプリムに負けてみろよ。俺はイシュバーンよりもさらに弱いと。そう、学院における最弱認定をされかねないんだ。」
「なんだ、ルディ。そんな小さなことを気にしていたのか。仮にだ、お前が客観的に最弱だとしてもだ。己が最強だ、そう信じることでそれは既にお前の世界では最強なのだ。」
「どういう世界で生きているんだ、イシュバーン。・・・お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。」
ルディは妙に意気地がないところがある。それは良くも悪くも、この男の、らしさを表していた。
離れに帰ると、まだサンドバッグの修理はできていないようだった。
「また新しいズタ袋を買いに行く方が早いか。」
――今度はもう少し多く重ねる必要がありそうだ。
特にすることもないので、そのまま瞑想をしてみる。
―
――
―――
だが、何も感じない。
「どうすりゃ鍛錬できるんだ?」
今度は魔力を手に集中させてみる。すると、うっすら手に魔力が集中するのが分かる。
―これをもう少し濃度を高めてやると
バリバリッと手にわずかに電気が生じる。
同様に足にも魔力を集中させる。すると、同じようにうっすら足に魔力が集中するのが分かる。
―これも濃度を高めてやると
バリバリバリッ
足にもわずかに電気が生じる。
しかも、しっかり魔力に意識を集中させることで、手足に魔力が集中させた状態を持続させることができるのだ。
闘気のほうは最近発見したので、まだどうやって鍛錬していけばよいのか明らかではないが、魔力集中の方はここしばらく間を見つけては鍛錬していたので、かなり上手く扱えるようになっていた。
次のステップは魔力を集中した状態で自在に動くことができるようにすることである。
そう考えると、もう少し鍛錬のメニューを増やす必要があるかもしれない。
「案外やらねばならないことが多いな。」
そして、もう一つ俺には克服するべき大きな課題があった。
―それは。
「迅雷」
―バシュッ
ズンッと移動と同時に拳をふるう。
――ここまではいい。
その拳はほとんど必殺ともいえる威力であり、これは一つの到達点だ。
問題はこの後なのだ。
俺は拳を突き出した状態でしばらく硬直している。
そう、この硬直時間。
マナポーションを使わない場合、迅雷が2回までしか使用できないことはまだいい。
しかし、せめて迅雷後に素早く移動するなり、迅雷を続けて発動するなり、マナポーションを飲むなり、何か動きを連続させる必要がある。
この数秒の硬直時間を何とかする必要があるのだ。
何度か試してみて、迅雷を放った後は一時的に魔力が枯渇した状態になることが分かった。
つまり、一度に大きく魔力を放出し、次に再び動ける状態にするまで魔力を充填させる必要があるらしい。
解決法として、現時点で考えられることは、すばやく魔力を集中させること。あるいは、可能であれば魔力が枯渇した状態でも他の何か―たとえば闘気など―で枯渇した魔力を補うこと。
魔力集中と、闘気は、俺の迅雷を更に発展させるためにも必要な技術であるのだ。




