12話
ある日、学院の廊下を歩いていると。
―あれは、セフィリアとラズリーとその取り巻きか。
またしても廊下で集まっている女子たち。とても通行の邪魔である。
「おい、邪魔だ。」
俺はその集団に向かって声を放つ。
「あら、負け犬のイシュバーンじゃない。」
ラズリーがそう言うと、クスクス笑う女子たち。
ラズリーは金髪のツインテールがとてもよく似合っていて、黙っていれば可愛らしいものだ。しかし、口を開いて言うことには割とえげつないものがある。
「これはこれは、公爵家のお嬢様ではないか。今日も今日とてツンケンしていて、とてもご機嫌麗しいようで。」
「うっさいわね。ハーヴェルに無様にやられたやつが何の用?」
ラズリーは少しイライラしながら言う。
「聞こえなかったか?通行の邪魔だ。」
「あなたが避ければいいじゃない?だってあなた負け犬なんだし。」
そしてクスクスと笑う女子たち。
―がきんちょが。
「・・・お嬢様はどうやらお口が汚いようだ。何やら悪いものでも食べたのか?口をゆすいで来たらどうだろう?」
「なんですって!?」
ラズリーが怒った。
――これは俺の勝ちだな。
「ラズリー、そのような野蛮な者に関わってはいけませんよ。」
この声はセフィリアである。セフィリアが口を出してきた時点で、俺は戦略的撤退を図る。
「・・・とにかく、もう少し集まる場所を考えろということだ。俺くらいしか、おまえたちに文句を言えるやつはおらんだろう。」
そう言って俺はセフィリアとラズリーの横を通り過ぎた。
その後、昼休み、いつもの屋上にて。
「なあ、ルディ。女という生き物は難しいものだな。」
何となく俺はルディに話しかける。
「なんだ?イシュバーン。急にどうしたんだ?」
「いや、何でもない。」
「・・・イシュバーン、アイリス嬢はハーヴェルにぞっこんらしいぜ?」
ルディは珍しく俺と同じホットサンドを食いながら言う。
「それは知っている。」
そうだろう。アイリスはヒューヴァの別荘のイベントの後、急速にハーヴェルとの仲を進展させていくのだ。
「知っていたのか?おまえ、元婚約者だろう?何とも思わないのか?」
「俺がアイリスのことを気にしたところで、どうにもならんからな。」
もしアイリスを手に入れようとするのであれば、模擬戦の場でハーヴェルを打ち負かす必要があったが、あの時点では俺は手加減してハーヴェルに勝てるほどの実力はなかった。かといって俺が勝つ場合、未来の勇者を殺してしまうおそれがあった。
決してアイリスを諦めようとしたわけではなく、状況的にやむを得ないものがあったのだ。
だが、そんなことはルディに言っても無駄なこと。
「イシュバーン、俺はおまえが女に全く興味がないと思っていたよ。」
「まったく、ルディ。おまえは女というものを勘違いをしている。だが、俺も詳しい話はしていなかったからな―――。」
そうして、俺はルディに、ラズリーやセフィリアとの今日の出来事を説明する。
「おまえ、セフィリア様やラズリー様にまでそんな態度なのかよ・・・。」
ルディはドン引きしていた。
「あいつらにモノを言うやつらがおらんのが悪いのだ。」
「イシュバーン。確かにこの学院では身分は関係ないが、仮にも相手は第三王女と公爵のご令嬢だぜ・・・。そんな相手にわざわざ文句を言おうと思うやつはどうかしているぜ?ラズリー様はまだいい。あの方はとても優しくて気さくな性格の人だ。だが、セフィリア様はまずいんじゃないか?」
「そうだな、セフィリアが口を出してきた時点で、俺はラズリーとの口喧嘩をやめたんだ。しかし、あのラズリーとの勝負は俺の勝ちだったな。」
俺は自信満々で言う。
「何でお優しいことで有名な公爵家のご令嬢と口喧嘩をして、しかも勝ったことが自慢になるんだよ・・・。イシュバーン、おまえは一体ヘイムの家でどんな教育を受けてきたんだ?」
「それは俺の親父殿にもよく言われる。」
「はあああああ。」
「ルディ、おまえのため息は聞き慣れた。」
「誰のせいだよ!誰の!!」
俺に比べてとても常識的なルディだった。




