8話
「・・・で、あるからにして、魔力というものは個人の生まれ持った性質ということができる。故に、魔力の強さや魔力量は個人差がある他、属性もそれぞれ異なる。そして、扱い方も人によって得て不得手がある。属性による攻撃を得意とする者、属性による防御を得意とする者、特定の属性に限られるが回復を得意とする者、あるいは思いもよらぬ方法で魔法を扱うことを得意とする者。―聞いているのか?イシュバーン。」
「え?ああ、聞いている。」
―やべ、自分の魔力練習に集中していて全く聞いていなかった。
「それでは、私が述べた魔力の性質を再度言ってみたまえ。」
「あ、ああ。それはだな。魔力についてだ。」
「それは本講義のテーマだ。今、私が先ほど何を述べたか、再度言ってみたまえ。」
「確か、魔力は人それぞれだったか?」
「―もういい、君に聞いた私が馬鹿だったようだ。」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
先ほどまで俺は魔力を目立たないように足に集中させる鍛錬をしていたので、講義の方は全く聞いていなかった。
まだまだ意識しなければ、せっかく集中させた魔力を持続させることは難しい。
俺の一旦の目標は、意識することなく、たとえ講義を聞きながらでも魔力を持続することができるという状態にすることである。
まずは目立たない足から鍛錬し、慣れてくれば、手に魔力を集中することができるように鍛錬していくつもりだ。
だが、意識して魔力を持続させることはできても、一度意識を外せば、魔力が霧散してしまう。そういったもどかしい状況が続いていた。
ガラン、ガラン。
講義時間の終わりを告げるベルが鳴る。
講義が終わると、講義室にいた生徒は次の講義室に移動する者や、演習室に移動する者など、皆、一斉に動き出す。
講義後、俺は講義室から出ようとすると、廊下の少し離れた場所にハーヴェルやアイリス、プリムといった一同の姿を見た。
俺との模擬戦以来、ハーヴェルの評価はうなぎ上りである。魔法剣は爆裂魔法の一種であるが、そのエフェクトも威力も凄まじい。「魔法王国エルドリア」で既に目にしている俺以外の生徒が見るのは、あの模擬戦が初めてだったはずだ。今やハーヴェルは魔法学院の注目の的だった。
俺とルディはいつものように購買でサンドウィッチとホットサンドを購入し、これまたいつものように屋上へ向かう。
「ちぇ、ハーヴェルのやつ、いけすかねえ野郎だぜ。」
サンドウィッチを食べながら、ルディが呟く。
「ハーヴェルは顔もいいし、腕もたつ。女子生徒が放っておかないだろうな。」
「おいおいおいい、イシュバーン。なんだ、そのおっさんなセリフは。あれか?ハーヴェルに負けて僧侶にでもなるつもりか?」
「アホか、ルディ。ハーヴェルなんぞ俺の足元にも及ばん。」
「・・・イシュバーン。俺はお前がどんな基準で他人を評価しているのか分かんねーよ。」
「なんだ、ルディ。お前もまだまだだな。」
――相変わらずホットサンドは美味い。
「そういえば、ハーヴェルとの合宿はどうなったんだ?」
「・・・ハーヴェルだけと合宿するんじゃねーよ。今週末にヒューヴァの別荘だとよ。」
「そうか。達者でな。」
「おいおいおい、イシュバーン。戦地に向かう戦士じゃねーんだ。もっとましな言い方しろよ。」
「なんだ、ルディ。今日はひどくナーバスじゃあないか。さては、合宿に行きたくないんだな?」
「しょうがないだろ、イシュバーン。ヒューヴァの方が爵位が高いんだ。呼ばれたら行くしかないんだ。俺なんざ、どうせハーヴェルとヒューヴァの引き立て役だろうに。」
「そうか、しょうがない。俺もお前について行くとしようか。」
そう言って俺はニヤリと笑う。
「それだけはやめてくれ、イシュバーン。大体、お前はハーヴェルに負けているのに、なんで相変わらずなんだよ。」
「それは、俺がイシュバーンであるからに他ならん。」
「・・・はあ。」
そう言って、ルディは一つ大きなため息をつくのだった。




