6話
翌日、ちょうど魔法学院が休みの日。
魔法王国エルドリアというだけあって、ここはエルドリアという国の王都である。そして、その王都の名前はそのままエルドリア。
俺はエルドリアの商業区にまで足を運んできていた。できれば、ここでハンドグローブを購入しておきたい。
いつも王都にはマナポーションを購入するために来ていたが、ハンドグローブとなると、やはり武器防具屋だろうか?
通りを歩いていると、行きつけの道具屋が目に入った。カウンター奥に色とりどりのポーション瓶が飾られている。ポーション瓶も通常の瓶から、凝ったものまで選択できるのである。ポーションは通常に使用するものの他、プレゼントの品として扱われることがあるからであるようだ。
今日は道具屋に用があるわけではないので、その前を通り過ぎる。
魔法王国というだけあって、魔法に関連する店が多い。取り扱いの品はいわゆる魔法使いご用達といったものが多いのである。当然、武器防具屋でも、魔法の杖や、スティック、あるいは魔力を編み込んだローブといった品が扱われている。店によって、扱われる装備の質が異なるようだ。
ちなみに、魔法学院では制服を着るのが一般的だ。
また装備品についても、その使用は貸し出しのものに限定され、私物の扱いが禁じられている。
しかし、魔法学院は様々な国の貴族が通うことから、各自、家に伝わる秘蔵の品というものもあるのだという。
俺の家であるヘイム家でもそういった秘蔵の品というようなものはあるが、それらはイシュトが扱うことになっている。親父曰く、俺が扱って壊しでもしたら大変なことだ、ということがその理由らしい。
―その言い分には納得せざるを得ない。
さて、俺が探し求めるものは、厚手のグローブである。もちろん、魔法王国とはいえ、剣や槍といった武具もあるが、グローブはあるだろうか?
商業区に目ぼしい店はないかと思い、いくつか店を回ってみたが、探し求めるグローブは置いてなかいようだった。
しょうがないから、金物屋に行ってサンドバッグに必要なズタ袋の方を先に購入することにする。
「婆や、婆やはいるか?」
「はいはい、なんじゃいな、おや、イシュバーンか。」
この金物屋は、ほとんど魔法に関する製品を取り扱っていない。その代わり、狩用の解体するための短剣や、狩った獲物を入れるための大きめのズタ袋、草刈り用の鉈や、鍋や、その鍋の蓋、更にはタオルや石鹸といった日用品まで、俺の探し求めるものはほとんどこの店に揃っていると言っても過言ではなかった。
「ああ、イシュバーンだ。いつものズタ袋を10枚ほど。あとは草刈り用の鉈と、タオルに石鹸。・・・鍋も買うか。それらが欲しいんだが。」
「はいよ。それじゃあ、銀貨3枚ほどだよ。」
「大きめの厚手の手袋は置いていないか?」
「そんなもの、何に使うんだい?」
「俺の魔法の訓練だ。」
本当は武術その他の鍛錬のために使うのだが。
「ええ・・・、と。ああ、あの棚だ。どれどれ。」
そう言って婆やは引き出しを開き、そこから厚手の手袋を取り出す。
「これだけしかないか?」
「そうだねえ、今はこれだけぢゃよ。取り寄せておくかい?」
「ああ。頼むよ。」
「よしよし、それではそうしよう。そいつは銀貨2枚でどうだい?」
そう言って、婆やはメモ帳に、品物を書きとめる。
「分かった。それじゃ、これ。全部で銀貨5枚だ。」
「たしかに・・・。また来とくれよ。」
「ああ、また来るよ。」
そう言って店を出る。
ズタ袋と、厚手のグローブを手に入れることができた。
あとは、ズタ袋の中に入れる砂と、サンドバッグをつるす金属の棒が必要だが、それらはセバスに聞けば、ありかが分かるかもしれない。
「砂と、金属の棒・・・ですか?」
家に戻ってセバスに訊ねると、また妙なことをするつもりだな?という顔をして、セバスが言うのだった。




