5話
「―合宿?」
いつもの屋上で昼飯を食べているとき。
ルディの話では近日中に学院の一部生徒が集まり、合宿をするのだそうだ。
「ああ、イシュバーン。どうやら今度のランクマッチのための合宿を行うという話があるらしいんだ。」
「どこで?」
一体どこで合宿を行うというのだろうか。
「ヒューヴァの別荘でみんなで集まって。俺も呼ばれたんだ。」
「俺にはそんなお誘いは来ていないが?」
「そりゃイシュバーン、お前はハーヴェルに負けたし、そもそもヒューヴァと話すこともほとんどないじゃないか。」
「それもそうだな。だが、そもそも誕生会もイシュトを招待するくらいだからな。」
「なあ、イシュバーン、お前、誰かにパーティーとか誘われたことあるのか?」
「覚えている範囲ではないな。誕生会も、ダンスパーティーも、お茶会も。そういうのはうちの弟がやるんじゃないか?」
「イシュバーン、俺ですらこの学院で何度かそういった経験はあるんだ。少しは交友関係を広めた方がいいんじゃないか?」
「何を言っているんだ、ルディ。俺はいつも交友関係を広めようとしてきたじゃあないか。」
「・・・本気で言っているのか?イシュバーン。」
「本気だとも。」
「・・・ヒューヴァの別荘の合宿には、ハーヴェルや、アイリス嬢やプリム嬢も参加するかもしれないんだってさ。」
「そりゃ、殊勝な心掛けだな。」
―思い出した。
イシュバーンとの模擬戦の後、ヒューヴァの別荘で、皆で合宿をするというイベントがあった。そういえば、そこで何故かルディがいたんだったな。
基本的にこのイベントは主人公サイドのイベントで、俺には関係ないことである。原作ではひたすらにハーヴェルに恨みを募らせていたのだろうか。
昨日は離れの掃除をしようと思ったが、結局ほとんど手つかずになってしまっていた。今日こそは帰ったら掃除をする必要がある。
そもそも、ランクマッチとやらで本気を出すつもりはないのだ。俺は自分の館のことで頭がいっぱいだった。
「ルディ、行くならボッチにならないようにな?」
俺はニヤリと笑う。
「おいおい、イシュバーンと一緒にされちゃ困るぜ?」
そう言うルディの顔は少し引きつっていた。
そんな感じで昼休みを終え、講義をとりあえず出席するだけして家に帰ってきた俺は、さっそく離れに向かう。
さあ、掃除である。
セバスはバケツの準備もしていたので、それに予め水を入れておく。そして、昨日セバスが用意したほうきを使って玄関を掃除し、雑巾で調度品を拭いていくのである。
―綺麗な調度品の数々は鑑賞する分には結構なことだが、今の俺には必要なものではないな。
「何かトレーニングできるものがあればよいが。」
これだけの部屋とスペースがあるのだ。だが、この世界で筋トレをする器具などは見たことがない。
しかし、そのときふとある考えが頭に浮かぶ。
―ないなら、作ればいいんじゃないか?
皮のグローブや、サンドバッグなど。作ろうと思えば作ることができるのではないだろうか。
皮のグローブは街まで行けば売っているかもしれないし、皮だけ買ってグローブらしきものを作ればよい。サンドバッグはズタ袋を重ねたものに藁でも入れれば問題ないだろう。
―必要なものは、今度街まで行って調達してこよう。
そこまで考え、雑巾を絞る。
廊下は絨毯が敷かれておらず、木の床があるのみである。埃が積もっているので、廊下の窓を開け放ち、ほうきを使って掃除をしていく。
各部屋には、絨毯が敷かれており、それにも埃が積もっていた。掃除機という文明の力が欲しいところであるが、この世界では見たことがない。
さすがに掃除機を自力で作ることはできないので、絨毯もほうきを使って掃除をするしかないだろう。
そう思い、ある程度まで廊下の掃除ができたところで、玄関のベルが鳴る。
玄関まで行くと、セバスが来ていた。
「坊ちゃん、食事はどうなさいますか?」
―もうそんな時間か。
「すまない、セバス。ここまで持ってきてくれ。」




