4話
「いかがでしたか、坊ちゃん。」
別邸に戻ると、セバスが声をかけてきた。
「ああ。少し埃が積もっているようだが、掃除をすれば問題ないだろう。」
「そうでしたか。あの場所はあなたのおじい様のお気に入りでした。」
「だろうな。随分部屋の数が多く見えたぞ?」
そう言って俺はニヤリと笑った。
「・・・そのことについては、私からは何も。お食事はどうなさいますか?」
「すぐ行くよ。準備を頼む。」
「かしこまりました。」
そういえば、離れにいる間、飯はどうしようか?こちらにわざわざ食べにくるのも面倒である。
それに、弟と親父は、しばらくするとまたこちらに戻ってくる。離れにいる間は、弟と親父の顔を見る必要がない。それはつまり、俺が美味しく飯を楽しむことができるということでもあるのだ。
なんなら、自分でボアを取ってくるか?いや、毎日ボアの肉では飽きるからな。
食堂に行くと、傍に控えるセバスに聞くことにする。
「なあ、セバス。離れにいる間、飯はどうすればいい?」
「どう致しますか?イシュト様やご当主様のお顔が恋しいのであれば、こちらに食べに来られますか?」
目を細めてこちらを見るセバス。
―どういう意図だ、その質問は。
「・・・いや、離れで一人で楽しむとしよう。メイドに持ってこさせてくれ。」
「承知致しました。」
しかし、親父と弟がいないというだけで、これほど飯が美味くなるとは!
先日のサラマンダーの唐揚げも、ボアのステーキも絶品だったが、それは、俺がゆっくり食事を楽しむことができたからに他ならない。また今度狩にいこう。
飯を食いながら、これからのことについて考える。
原作では、イシュバーンは今ごろ意気消沈し、ひたすらにハーヴェルを恨む日々だったが、まあ、今の俺はそんなアホなことはしない。
むしろ、肩の荷が降りた気がする。これからは世間体にとらわれず、ただひたすらに鍛錬を重ねることができるのである。
貴族の社会は面倒なお誕生会や、お茶会、ダンスパーティーなど、とかくなんやかんやとイベント(余計なこと)が多い。そんなものに参加する意義を俺は到底見出せないのだ。
原作ではハーヴェルと決闘をあと2回ほどやるのだが、いずれもこちらから決闘を吹っ掛けたあげく、ハーヴェルにやられるのである。俺はハーヴェルに決闘を申し込むつもりはない。
直近のメインイベントといえば、魔法学院の学年序列を決めるランクマッチがあるが、これはハーヴェル、ラズリー、アウグスタの3人でほぼ決まる。俺は参加することがあっても、サンダーボルトしか使用しないつもりだ。
ちなみに、ランクマッチで上位に入ることができれば、他の魔法学院との対抗戦に出ることができるが、俺には興味はない。
この国には他にいくつか魔法学院があるが、ここ魔法学院アルトリウスが、最も位が高く、才能のある者が集まっている。他の魔法学院とわざわざ魔法を競うというモチベーションはあまりない。
もっとも、俺やルディは他の魔法学院に行ったとしても、ちょっとまあ、といった感じではあるだろうが。ルディはこれを聞いたら怒るかもな。
そんなことをつらつらと考えていると、いつの間にか完食していた。
「セバス、ほうきや雑巾はどこにある?」
俺は別邸へ行き、掃除の道具はどこにあるかとセバスに聞くことにした。
「おや、ご自分で掃除をされるつもりですか?今日も森に行かれるのでは?」
ちなみに、毎日毎日森に出かけているのを知っているのはセバスだけだ。
「ああ。魔法の訓練はしばらくの間、するつもりはない。」
セバスには魔法の訓練とだけ言ってあった。
「そうでございますか。掃除は後日メイドにやらせますが?」
「いや、さっさと自分でやる。もたもたしていると親父と弟が帰ってくるかもしれない。」
来年はイシュトが魔法学院アルトリウスに入学するのである。
「承知致しました。それではほうきと雑巾を持って参りましょう。少々お待ちくださいませ。」
―さあ、離れの館に引っ越す準備をしよう。
善は急げ、である。早く引っ越しするに越したことはないのだ。




