18話
「・・・・・・」
あまりの光景の前に俺とレティは二人とも黙り込んでしまう。
すると、タンタンタンッと船内から続く階段から誰かが駆け上がる音が聞こえてきた。
「お嬢様!お嬢様はご無事ですか!?」
「ソフィアか、問題ない。相変わらず気を失っているだけだ。」
「ご無事でしたか・・・!」
ソフィアがほっと胸をなでおろすが、
「・・・あれは何? 雷、はあんなに大きくはないよね?」
レティは先ほどまで船があった場所から目が離せないようだ。
―雷?
あれは決して雷などではない。イシュヴァルの爪がそのまま雲の中から降りて来たのだ。
「雷に見えたのか?」
俺はソフィアに確認することにする。
「ううん、何て言うんだろう。おっきな雷?船を覆いつくすほどの。でもそんなのって・・・。」
「おっきな雷、ですか?」
ソフィアが不思議そうな顔をする。
「うん。おっきな雷?が船に降り注いだと思ったら、船が消えていたんだ。だよね?」
レティは俺の方を見る。
「いや、俺には―。」
イシュヴァルの爪が降ってきたように見えた、と伝えようとするが、そもそもイシュヴァルなど誰も見たことがないのだ。
「・・・俺には何か爪のようなものが雲から伸びてきたように見えた。」
「爪??」
レティは不思議そうな顔をする。
「・・・いや、俺の勘違いかもしれない。」
「―—何の音だ!?」
どうやらハーヴェルも、船内からこちらに戻って来たらしい。
そして、先ほどまで幽霊船があった場所を見て、
「―あの船はどこに行った?」
「・・・消えたよ。」
「消えたって、どこに!?」
「・・・さあな。きっと本来あるべき場所に戻ったんだろう。」
「戻ろう?皆もうびしょ濡れだよ。」
先ほどまでの大雨は止み、今は晴れ間すら出てきているがそれでも服は濡れたままだった。
「ああ、さっさと着替えるとしよう。みな風邪でもひいては困るからな。」
レティの提案に賛同し、腕の中のラズリーを見ると、じっとあの船があった場所を見ているようだった。
「―起きていたのか。」
「・・・うん。さっき。」
「お嬢様、歩けますか?」
「ソフィー、平気よ。大丈夫。イシュバーン、ありがとう。」
そう言うと、ラズリーは俺から離れる。
「行こ!風邪ひいちゃうよ!」
今度こそ、俺たちは船内に戻ることにする。
その後、あの船で結局何があったのかという話になったが、俺も、いつの間にかこちらの船に転移させられていたということにした。ラスティアについてはあまりにも突拍子もなさすぎる事で実際に体験した俺自身も俄かには信じがたい。
俺たちの船はどうやら、俺たちがラスティアの船に乗り込んでからすぐ動くようになっていたらしい。
結局あの船の正体については何なのか分からずじまい、そんなことになった。
ラズリーの具合によってはエルドリアに引き返してもよいのではないかと提案したが、本人は特に問題ないということであり、俺たちはそのままセルペタに向かうことにした。
・・・きっとあの船上での出来事は、夢幻の類だったのかもしれない。
―コンコン
夜遅く、誰かが扉をノックする。
こんな夜更けに誰だろうか?
扉を開け、
「―こんな夜更けにどうしたんだ?」
俺はその人物を迎え入れ、扉を閉める。
「・・・うん。お話、しましょ?」
どうやらその人物は俺と話をしたいらしい。
「何か飲むか?」
この部屋には水差しと、使い捨ての茶葉が用意されていたので、簡単にお茶を用意するくらいはできる。
「―ええ。頂くわ。」
そうして、二人でお茶を飲み、しばらくして、
「・・・ねえ、イシュバーン。ラスティアって人、知ってる?」
ラズリーがそんなことを聞いてきたのだった。




