14話
―急げ!!!
まだだ!まだ間に合うはずだ!!!
―場所は覚えている!
一気に廊下を駆け降りる!!
途中、黒いモノが蠢いているが、構っている暇はない。目についたものには素早く突きや蹴りを入れ、先に進む―
「―はあ、はあ、はあ・・・!!!」
決して長い距離ではなかったが、肩で息をする。
「ここだ!!!!!!!!!」
ズガッと扉を蹴破る——
「――やあ。遅かったじゃないか。」
嗤う少年。
俺が見たものは、大量の血痕といつか見た脈打つ肉の塊だった。
―ああ、結局
「ふふ、見てよ!僕の最高傑作さ―へぶっ!!!」
少年は弾け飛び、壁に叩きつけられる。
「・・・痛いなあ。でも無―うがっ!!!!!」
ジュウジュウと肉を焦がしながら這いつくばり、少年はその名を呼ぶ。
「くそ!!!―ラスティア!!!!」
すると、少年の前に黒い影の形をした一人の少女が姿を現した。
「・・・お前たちは、何だ?そうやって死者を冒涜して何がしたい?」
男は、少女の後ろの少年を睨みつけながら言う。
「げほっげほっ!!あはは!まだ生きてるけどね!」
呻きながらも、余裕のある表情を崩さない。
先ほどの電光石火の一撃、二撃を連続で打ち込んだ時とは打って変わって、男には逡巡する様子が見られた。
「ラスティア、お願い!」
少年がそう言うと、
少女が手を前に広げ、何事かを呟く。すると、男は足元から凍り付いていく。
「―ああ、畜生が。」
男は泣きそうな顔をする。それは目の前の少女を救う手段が自分にはないことを知っていたからだろう。
「・・・ラスティア、ごめん。」
それだけ言うと、男は瞬時に片手に雷の刃を作り出し、それを少女に向かって投擲する!!
その刃は簡単に少女を貫き、壁に突き刺さり、部屋中に電撃を巻き散らし、それがヴェリスと呼ばれた少年を巻き込む。
「ギッッッッ!!!」
肉はめくれ、既に満身創痍の状態だが、それでも少年は立っている。
―おかしい
男は思う。既に迅雷を二度も打ち込み、その一部とはいえ、雷切を受けてなお敵は立っているのだ。
もう一度、雷の刃を作り、少年に投擲しようとしたとき
―?
ふいに、男はぞくりとする気配を感じた。何か冷たいものが彼の手に触れるのを感じたからだ。
―しまった!
男がそう思った時には、少女が男の手を掴んでいた。
少女は呟く。
「——ずっと私と、一緒に」
少年の嘲笑うような顔が目に入る。
次の瞬間、氷の世界が、少女も男も船も何もかもを凍り付かせた。
―こりゃ、さすがに無理だわ
男は自分の体温が急速に低下していくのを感じた。距離ゼロで絶対零度の世界の直撃を受けたのだ。もはや自分にはどうしようもないことが分かっていた。
―何か、この感覚、どこかで感じたことあるなあ
ふとそんなことを思う。それはどこだっただろうか?
―ああ、思い出した
あれは、こちらの世界に来る前。日本という土地で生き、そしてその生を全うしようとしたその瞬間。
―なるほど、二度目か
次はどのような世界に行くことになるのか?確か、あいつはこの世界に来る前に何て言っていたっけ?
イシュバーンとして生きてきて、まだまだやりたいこともあったはずだが、妙に冷静な気持ちでいる自分に驚きはしなかった。それは以前も同じような体験をしたからだろう。
―できることなら彼女を何とかしてやりたかったが
だが、何とかしようにも、ゼロ距離でコキュートスを受けたのだ。もともとちっぽけな力しか持っていない男に、流石にそれに抗うほどのものはなかった。
—力が、力が欲しい
しかし、どうあがいたところで、イシュバーンの個体値ではどうすることもできない
せめて
——魔力さえあれば
そう、魔力さえあれば
せめて燃料ともいえる魔力さえあれば、後は己の力でこの状況を打破できるという確信が男にはあった
しかし、いくら振り絞ったところで、己の中の魔力はもはや底を尽く寸前である
自分の中になければ、他から持ってくることはできないか—
男は無我夢中で手を伸ばす
天高く伸ばしたそれは雲を掴み、空を掴み、宙を掴もうとする
そうして無我夢中で手を伸ばしているうちに、『おおきなもの』に触れた気がした
それは悠々と天高く宙を飛び、俺の伸ばす手など気にする様子もない
——これなら
天高く腕を伸ばし、限界まで伸ばした手で、
———そいつを俺によこせ!!!
その一部を掴み、もぎ取る!!!!
直ちに『おおきなもの』の酷く不快な感情が伝わってくるが、それを気にしている暇はない!!!!!
―いける・・・。これならいけるぞ・・・!!!
身を焦がし、心を、有り余る程の無尽蔵ともいえる、熱で覆う——
ピシッピシッッ・・・
氷の世界が溶けていく
——少しずつ少しずつ溶けていく
———ピッ
目を開けて俺が見たのは、禍々しい黒い氷の世界。そして、驚愕した様子の少年と、血の涙を流す少女だった。




