13話
「どこへ行きやがった?」
辺りを見渡すも、先ほどまでいた女の姿も、少年の姿も見当たらない。
「ふう~~~。」
大きく息を吐く。
「・・・サフィラは?」
呆然とした様子のラスティア。
「・・・おそらく、ああなってしまっては生きてはいないだろう。それより―」
「嘘よ!!!」
俺の言葉を遮る。
「貴方、一体誰なの・・・?お父様とお母様がよこした??でもお父様とお母様は―!!!」
そう言うと、ラスティアはぽろぽろと涙を流し、蹲ってしまった。
「・・・・・・」
かける言葉が見当たらない。
おそらく、彼女にとって、サフィラは生きていた唯一の肉親だったのだろう。彼女にとってその唯一である弟を失ったという事実は受け止め難い、とうことを理解することは容易なことだった。
だが、こんなところでいつまでもめそめそしていても仕方がない。
敵はまだ生きているし、いつ攻撃を仕掛けられたとしてもおかしくはない。
そして、史実通りであれば、この後ラスティアは——
「行こう、ラスティア。あいつらを倒すには君の力が必要だ。」
俺は彼女に手を差し伸べる。
しかし
「お姉ちゃん。」
幼い少年のような声が聞こえてくる。
よく見ると、サフィラの姿をしたモノが少し離れた所にいるのが見える。
―舐めやがって!
ふらふらとそちらに行こうとするラスティア。
「―行くな!ラスティア!!」
俺は彼女の手を掴む!!
びくっと肩を震わせ、でも、と小さな声で呟くのが聞こえた。
「・・・アレは君の敵だ。」
彼女はうんっとぽつりと呟き、俺の手をそっと振りほどき、そして――
コキュートスという微かな声が聞こえた。
リィィィィィィィンンン
鈴の音色によく似た綺麗な音が聞こえた。
「・・・な、に・・・。」
凍りついていく少年。おそらくは魔力で最大限に抵抗しているのだろう。しかし、ゆっくり、ゆっくりと氷に閉ざされていく。
「―サフィラ、ごめんね?」
ラスティアが涙を流すのが見えた。
今俺はラスティアの魔力の範囲外にいるようだが、一歩でも動けば俺も奴と同じような状況になるだろう。このときの俺は、対峙する二人の様子を眺めているしかなかった。
そして、サフィラが完全に氷に閉ざされようとした、そのとき―
「ありがとう、お姉ちゃん。」
それは、紛れもなくサフィラの声だった。
「サフィラ!!」
それは、そうラスティアが叫ぶとほぼ同時のことだった。
「あ・・・」
ラスティアが小さく声を上げる。
そのとき俺が目にしたもの、それは影から突き出た幾重の指に貫かれたラスティアの姿だった。いくつもの指と手が彼女に絡みついている。あの勇者と同じ、いやそれ以上に。
―ああ、不味い
だが、身体が動かない。
――動けよ!なんで!
やはり、俺の身体はピクリとも動かない。
―――どうしてなんだよ!動けよ!!
ここで使わずしていつ使う!!!!!!
――――迅雷!!!!!
しかし、俺の身体はまるで氷の世界に閉ざされたかのように動かない。
やがて、影の中から、まるで赤子のような形をした黒いモノが出てきて、指に貫かれたラスティアを乱暴に手で掴むと、ゴクリと大きな音を立てて丸呑みし、そのまま姿を影の中に眩ませた。
・・・俺はその様子をただ眺めることしかできなかった
「あ、危なか・・・」
次の瞬間、ぐにゃりと歪む少年。そして大きな破裂音を響かせ、弾け飛ぶ!!!!
俺の迅雷が発動したのだ。
―こんなときに!!!
にゅるりとした手応えと、しかし確実にダメージを与えているという感覚。きっと奴の魔力を根こそぎ削り取ったのだろう。しかし仕留めるには至らない。
「げえ、げえ・・・!!!」
サフィラとは異なる、ゾーイの姿で現れた少年が苦しそうな呻き声をあげる。
「くそ!!!げえ・・・、だが手に入れた・・・!あはは!!!げえ!!!」
その口から大きな黒い塊を吐き出し、ちゃぽんっとまたしても音を立てる。
迅雷の硬直が解除される頃には、その姿は見えなくなっていた。
「おのれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
しかし、分かっていた。その結末は、俺には既に分かっていたことだった。




