12話
「なに!?」
呆然とする勇者。
「―はい、おしまい。」
少女がそれだけ言うと、影が形を変え、勇者を貫く!!!
「・・・お・・・、ぐ・・・ぐはっ!」
そのまま、串刺しにされ、ぐぐぐっと空中に持ち上がり、その後、
「あっは!じゃあね!」
ヴェリスと呼ばれた少年が楽し気にそう言うと——
現れたのは、いつか見た黒いモノ。だが、あの時とは異なり、今は頭以外に体と両手がある。あの時とは異なりぎょろりとした大きな目を開け、異常に大きな口を開ける。串刺しにされた勇者を巨大な右手で掴み取り、口へ送る。その喉を勇者の形をしたものが、ぬるりと通り抜け、その腹を抜けるとそのままどこかへと消えた。
「デュライ!!!」
悲鳴が響く!
「よくやったわ!ヴェリス!!ふふふ!勇者を喰わせることができたんだもの!!!これで相手がいかに神の愛子といっても——あら??」
―気が付かれた!
「・・・出てきなさいな。」
空中から呼ばれてしまう。
―どうする?
もはや、今この瞬間のイベントが何なのか俺は気が付いている。
―俺に何ができる?
この世界は既に確定してしまった過去だろう。俺に何ができる?きっと俺が出た所で、何が変わるというわけでもない。それどころか、歴史の強制力というやつによって排除されかねない。
―逃げるべきか?
本来であれば、そのまま逃げるべきだろう。この世界で得た体験は元の世界に引き継がれる。であれば、逆に、ここでやられてしまえばそれで終わり。しかし、逃げるといってもここは船の上。
―そうであれば、前に進むしかない
嘆かわしいが、それ以外に選択肢はないのである。
「・・・何か用か?」
俺は物陰から姿を現す。
「ああ、やっぱり君かあ。」
サフィラがつまらなそうな顔で言う。
やはりあの違和感は正しかったのだ。先ほどの話を聞く限り、目の前にいるサフィラは本当のサフィラではなく、ヴェリスという「何か」なのだろう。
「!!?」
ラスティアが驚いて振り向く。
「―振り向くな。敵は目の前だ。」
「ふうん?出てきてもらって さっそくだけど―――、燃えなさい。」
少女がそれだけ言うと、巨大な火の玉が俺を包む!!
燃え盛る火炎の中、俺は冷静だった。
幸い、相手は二人。俺と、今どの程度戦力になるか分からないが、ラスティアでこちらも二人。
数が同じであれば、いかに強力な敵であれ、俺にも勝機がある。
——殺し合うのであれば
・・・狙いは女の上半分。このまま吹き飛ばす!!!
「迅雷」
瞬間、女の前に肉迫すると、相手のギョッとした顔が目に入った。
どこかの貴族だろうか?随分と上等なローブである。まだ俺たちと同じ位の年端もいかぬ少女であるが、俺には関係ない。
ここで狩らせてもらうおう。少女の上半身を吹き飛ばすべく拳を振るう。
パリンッ!!!
「ギャッ!」
上半身を吹き飛ばすはずの一撃必殺の拳は、予想外に、そのまま女を壁に叩きつけることになった!!!
―外した!?
いや、何かの障壁か!?だが肉を裂く手応えはあった!
「―ぐ、この・・・!!ぼけがあああああああああああああああああああああ!!!!」
叫ぶ女!見れば、片手を吹き飛ばし、血が噴き出る腕をもう片方でどうにか押さえているのが見えた。
―まだだ
こいつはここで始末する!!!
!?
―ガードだ!!
横から黒い拳がぬっと現れる!!!
ギィン!!!
迅雷を放ち硬直する体を、遮二無二に動かし何とかそれを弾く!!!
「ゴホッ!・・・あいつ・・・!! 障壁を破りやがった!!!ヴェリス!!!」
女が叫ぶと、女を黒い手が包み、影の中へ押しやる。
――ちゃぽんっ
それだけ音を立てて、ベルフェラと呼ばれた女は影の中へ消えた。
「・・・びっくりするなあ。」
ヴェリスと呼ばれた少年が怪訝な顔をする。
「・・・君、何?どこから来たの?」
「さあな?教えてやる義理はないんでね。」
相手は俺にとって未知な存在であるが、相手にとっても俺は未知の存在に他ならないだろう。
「ラスティア。やるぞ。アレはもはやお前の弟でも何でもない。」
「・・・でも!!」
泣きそうな顔をするラスティア。
「お姉ちゃん、怖いよ・・・。」
すると、少年が急に泣きそうな顔をしてサフィラの声でそんなことを言う。それは以前見たサフィラにまるでそっくりだった。
——気味が悪いったらないな
「ヴェリスと言ったか。その気色の悪い芝居をやめろ。」
すると、少年は憮然とした表情をして、
「―せっかくいいとこなのに、邪魔するなあ。」
そう言ってこちらを睨みつける。
―迅雷を出すか?
俺は拳を構える。だが、相手は妙な攻撃手段を持つ。もう少し見極めるべきか?
「―いいの?この体はサフィラ本人のものだよ?それに彼はここでまだ生きてるよ?」
少年は自分を手で示しながら、ニッタリと笑う。
「生憎、俺はサフィラとやらに思い入れはないんでね。迅雷。」
先手必勝。
べちょり
「サフィラ!!!」
後ろから悲痛な叫び声が聞こえるが―
手応えがない。ということは―
手で貫かいたサフィラの体がべちゃりと崩れ、別の場所からぬっと別の姿の少年が現れる。おそらくアレがヴェリスの本体だろう。
「おぇ!!!よくも・・・!」
俺は躊躇せず、次の瞬間、拳を叩き込む!!
「うげえ!」
少年は呻き声をあげるが―
べっちょりとした手応え。迅雷を放った拳にはべっちょりとした黒い粘液が纏わりついていた。
「―チッ。気色の悪い。」
更にもう一度、拳を叩き込もうとして、少年は影の中に姿を消した。




