10話
「迅雷のイシュバーン・・・。はて、どこかで聞いたような?」
すると、剽軽な騎士は首を傾げる。
「まさか!今初めて名乗るからな。本当はただのイシュバーンさ。」
ありふれた名前とは思えないが、似たような名前の者でもいたのかもしれない。
「何だ。二つ名を持っている奴なんてめったにいないからな。俺の勘違いか。」
剽軽な騎士はどうやら思い違いをしていたらしい。
「で、『迅雷の』イシュバーン。なぜこの船に乗っている?」
「だから、それは単なる冗談だと。本当に偶然なんだ。どういうわけか、乗る船を間違えたらしい。」
「本当はどこに行く予定だった?」
「ちょうど、ロデリアからアルトリウスに戻る船に乗ろうと思っていたんだ。」
もちろん、実際にこの時代にそんな船があったかどうかは知らない。だが、アルトリウスは歴史ある国だ。ロデリアから船が出ていたとしてもおかしくはないはず。
「―よろしい。ならば船のチケットは?」
騎士は疑り深く聞いてくる。
―そんなもん持ってねえよ!どうする??
こればかりはお手上げだ。
「・・・チケットは持っていない。持ち金が尽きたんだ。」
言い訳として苦しいか?
「・・・密航者か?確かに、この船は民間船に模してあったからな。そういういこともある、か?」
騎士は何かを考えるようにして言う。
―ごまかしきれるか?
「怪しいところもあるが、まあいいだろう。幸いこの船の行先はアルトリウスだ。だが、アルトリウスに到着するまではそこで大人しくしてもらうぞ。」
——やはり、彼らがこの船に乗っているのは、ゼヘラ関連か?
ガーランドの話では、今の時点ではゼヘラは元は単なる革命軍らしい。
革命の際に、王族がその混乱から避難するということはあり得ないことではない。
「逆に、なぜ王族がこんな客船なぞに乗っている?確か、民間船に模してあると言っていたな?」
「お前が知る必要はないな。」
そっけない態度をとる剽軽な騎士。聞けばその名をロイというようだ。
「悪いがそういうことだ。後で見張りをつけるから、便所に行きたいときはそいつに言うことだな。」
それだけ言うと、ロイは去ろうとして、こちらを振り返り、
「・・・見張りは女がいいか?」
そう言うと、ニヤッと笑う。
「はあ?さっさと行けよ!」
からかっているのか?
「はいはい。」
そして、ロイは階段を上って行った。
そうして、しばらくすると、また別の騎士が一人降りてきた。
「おう、イシュバーンといったか?見張りは女が良かったんだって?悪いな!」
はっはっはと笑い、牢屋の前の椅子にギシッと腰かける男。
「おい。俺はそんなことを一言も言っていない。」
「だとしても、見張りは女が良かっただろ?」
ニヤニヤと笑う騎士。
「―当たり前だ。むさ苦しい男なんかよりは、きっと女と話していた方が楽しい。」
憮然として答える。
「はっはっは!そら見ろ!!」
―まったく、やかましいわ!
ここの騎士は陽気な人間が多いのだろうか?
「・・・何の用だよ?」
ちなみに、既に干物二枚とパンとスープは胃袋の中だ。
「いや?ロイから面白いやつという話を聞いてな?」
相変わらずニヤニヤと笑う騎士。
「そりゃ、いい迷惑だ。」
「密航者だって?・・・そんなナリをしているのも頷けるな。」
俺のシャツとズボンを見て騎士は言う。
「言っておくが、不可抗力だ。乗る船を間違えただけだ。」
「密航者が干物泥棒たあ、いい度胸じゃねえか!はっはっは!!」
「・・・腹が減っていたんだよ。」
よく見ると、この男の着るプレートアーマーも立派なものだ。
「なあ、お前たちって、やはり近衛騎士なのか?」
目の前の大笑いする騎士もロイという騎士も、親しみやすい雰囲気を出しているが、しかしそれは建前だろう。
仮に脱獄をしていれば、この騎士達を相手にしなければならないということを考えると、飯が出てくるまで辛抱強く待っていた甲斐があった。
「さあな?ご想像にお任せすることにしよう。」
だが、近衛騎士であれば、この男を含め、戦闘力はピカ一のはずである。しかも、この船には、ロデリアの勇者と聖剣、そしてラスティアがいるのだ。
―ありえない
この船には、いわばロデリアの最高戦力が結集していると言ってもいいはず。
「ふあぁ。」
俺は大きくあくびをする。
・・・食ったら眠くなってきたな
またしても、睡魔が襲ってきたのだった。




