9話
「調子はどうかしら?」
現れたのは、ラスティアとサフィラだった。
「―これはこれは。お姫様と皇帝陛下ではないか。」
牢屋の中から声をかける。
「嫌味な言い方をするわね。 人がせっかく気にしてあげたというのに。」
ムッとする表情をするラスティア。
「生憎、それぐらいしか取り柄がなくてね。」
「あるじゃない? 干物泥棒。」
「・・・あれは止むを得ないことだったのだ。」
俺は憮然として答える。
「―あら。どういう事情があったのかしら?」
腕組みをするラスティア。
「―お前が知る必要はない。」
「貴方、色々と凄いわね。相手が王族と分かっていて、お前と言える人はそんなにいないわ。」
「何、単に常識がないだけだろう。」
「・・・それ、自分で言うこと?」
ラスティアは呆れた様子だ。
―ん?
俺はふと、サフィラの方へ目をやると、サフィラが探るような目でこちらを見ていた。
俺がサフィラを見た瞬間、すっと目を外すサフィラ。
―何だ?
俺はサフィラのその様子に何か違和感を持った。
サフィラとは話したことがある。そのときには素直で穏やかな印象を受けたが、実際にはどういった性格だったのだろうか?
―まあ、目の前にいるのは所詮、干物泥棒だしな
今ここにいるサフィラは俺のことを知らないはずである。
「—ところで、俺の飯はまだなのか。」
オラ、腹が減ったゾ。
「ほんっっっとうに図々しい!貴方のご飯なんてないわ!」
「良いのか?こんなところ、いつでも脱獄できるぜ?」
「やってみなさいよ。貴方、私たちを侮りすぎよ?」
―いや、俺ほどお前の恐ろしさを理解しているやつなど他にいないだろう
「それに、逃げたところで、こんな海の上でどうするつもりなの?」
「・・・まあ、何とかなるだろう。」
「何それ。答えになっていないわ。」
そう言うと、ラスティアは引き返そうとする。
「―待て。」
その後ろ姿に向かって声をかける。
「―何よ。」
少し苛立たし気に振り返るラスティア。
「・・・皇帝がわざわざどうしてこんな所に?」
「この子が貴方のことを見たいって言ったのよ。ね?」
ラスティアがそう言うと、コクリと頷くサフィラ。
そして、ラスティアとサフィラは上の階へ戻って行った。
―些細な違和感
だが、気にすることもないといえば、気にすることもない。
「こりゃ、腹が減りすぎているせいだな。」
―しかし、本格的に飯を手に入れなければ、不味いな
この船は、歴史を辿るとすれば、そのうちゼヘラの襲撃に遭うらしい。当然俺にどうこうできる問題ではないので、逃げることを考えなければならない。その際に腹が減って逃げることもできませんでした、ではとてもではないがお話にならない。
あのラスティアを敗北させるほどの強敵であるのだ。
万が一、何かの拍子で巻き込まれでもしたら、たとえ万全の状態の俺でも全く歯が立たない可能性が高い。
「ぬああああ~~。めしいいい。」
牢屋の中から叫んでみるが、返事はない。
―やるしか、ないのか
背に腹は代えられぬ。いざ——
と、鉄格子をブチ破ろうとしたとき、
「おーい、飯だ!持って来てやったぞ!」
先ほどの剽軽な騎士が階段を降りてくる。見ると、パンとスープと、魚の干物。どうやら、干物の方は、俺が齧りついていたやつと、新しい物の、二枚のようだ。牢屋にいる者に対するもてなしとしては随分と豪華なものだった。
「おお!待っていた!!」
思わず、鉄格子をガシッと掴む。
「おいおい、そう焦るな。姫様に感謝しろよ?」
そう言いながら、牢屋にある小窓の鍵を開け、アルスは俺に飯を渡してくる。
「ありがてえええ~~~。」
そう言って俺は飯をふんだくり、そのまま勢いよく口の中に放り込む。まず口にするのはさっき食い損ねた干物から。
「うめええええ!!!」
こんなにも美味い干物があったとは!!
騎士の方を見ると、微妙そうな顔をして、俺を見ている。
「・・・何だ、その顔は。」
「いや、それ。そんな美味いか?」
そんなことを訊ねてくるアルス。
「・・・やらんぞ?」
アルスの視界から干物をさっと隠す。
「違うわ!・・・それ、俺も食ったことあるんだけどよお、そんな美味かった覚えはないんだよ。」
「・・・それは干物に失礼というやつだ。」
こんなにも美味しいのに。
「はあ・・・。お前、変わってんのな。名は?」
「イシュバーンだ。迅雷のイシュバーン。そう呼ばれている。」
豪華な飯を前に、ちょっとだけ格好をつけてみたくなった。




