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迅雷のイシュバーン ~転生した悪役貴族は覇道を目指す (悠々自適にスロ―ライフを送りたいだけなのだが!)~  作者: ねこまじん
4部 たゆたう波音 12章 Snow Labyrinth

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9話

「調子はどうかしら?」


現れたのは、ラスティアとサフィラだった。


「―これはこれは。お姫様と皇帝陛下ではないか。」

牢屋の中から声をかける。


「嫌味な言い方をするわね。 人がせっかく気にしてあげたというのに。」

ムッとする表情をするラスティア。


「生憎、それぐらいしか取り柄がなくてね。」


「あるじゃない? 干物泥棒。」


「・・・あれは止むを得ないことだったのだ。」

俺は憮然として答える。


「―あら。どういう事情があったのかしら?」

腕組みをするラスティア。


「―お前が知る必要はない。」


「貴方、色々と凄いわね。相手が王族と分かっていて、お前と言える人はそんなにいないわ。」


「何、単に常識がないだけだろう。」


「・・・それ、自分で言うこと?」

ラスティアは呆れた様子だ。


―ん?

俺はふと、サフィラの方へ目をやると、サフィラが探るような目でこちらを見ていた。


俺がサフィラを見た瞬間、すっと目を外すサフィラ。


―何だ?

俺はサフィラのその様子に何か違和感を持った。


サフィラとは話したことがある。そのときには素直で穏やかな印象を受けたが、実際にはどういった性格だったのだろうか?


―まあ、目の前にいるのは所詮、干物泥棒だしな

今ここにいるサフィラは俺のことを知らないはずである。



「—ところで、俺の飯はまだなのか。」

オラ、腹が減ったゾ。


「ほんっっっとうに図々しい!貴方のご飯なんてないわ!」


「良いのか?こんなところ、いつでも脱獄できるぜ?」


「やってみなさいよ。貴方、私たちを侮りすぎよ?」


―いや、俺ほどお前の恐ろしさを理解しているやつなど他にいないだろう


「それに、逃げたところで、こんな海の上でどうするつもりなの?」


「・・・まあ、何とかなるだろう。」


「何それ。答えになっていないわ。」

そう言うと、ラスティアは引き返そうとする。


「―待て。」

その後ろ姿に向かって声をかける。



「―何よ。」

少し苛立たし気に振り返るラスティア。


「・・・皇帝がわざわざどうしてこんな所に?」


「この子が貴方のことを見たいって言ったのよ。ね?」


ラスティアがそう言うと、コクリと頷くサフィラ。


そして、ラスティアとサフィラは上の階へ戻って行った。



―些細な違和感

だが、気にすることもないといえば、気にすることもない。


「こりゃ、腹が減りすぎているせいだな。」


―しかし、本格的に飯を手に入れなければ、不味いな

この船は、歴史を辿るとすれば、そのうちゼヘラの襲撃に遭うらしい。当然俺にどうこうできる問題ではないので、逃げることを考えなければならない。その際に腹が減って逃げることもできませんでした、ではとてもではないがお話にならない。


あのラスティアを敗北させるほどの強敵であるのだ。

万が一、何かの拍子で巻き込まれでもしたら、たとえ万全の状態の俺でも全く歯が立たない可能性が高い。



「ぬああああ~~。めしいいい。」

牢屋の中から叫んでみるが、返事はない。


―やるしか、ないのか

背に腹は代えられぬ。いざ——


と、鉄格子をブチ破ろうとしたとき、



「おーい、飯だ!持って来てやったぞ!」

先ほどの剽軽な騎士が階段を降りてくる。見ると、パンとスープと、魚の干物。どうやら、干物の方は、俺が齧りついていたやつと、新しい物の、二枚のようだ。牢屋にいる者に対するもてなしとしては随分と豪華なものだった。


「おお!待っていた!!」

思わず、鉄格子をガシッと掴む。


「おいおい、そう焦るな。姫様に感謝しろよ?」

そう言いながら、牢屋にある小窓の鍵を開け、アルスは俺に飯を渡してくる。


「ありがてえええ~~~。」

そう言って俺は飯をふんだくり、そのまま勢いよく口の中に放り込む。まず口にするのはさっき食い損ねた干物から。


「うめええええ!!!」

こんなにも美味い干物があったとは!!


騎士の方を見ると、微妙そうな顔をして、俺を見ている。


「・・・何だ、その顔は。」


「いや、それ。そんな美味いか?」

そんなことを訊ねてくるアルス。


「・・・やらんぞ?」

アルスの視界から干物をさっと隠す。


「違うわ!・・・それ、俺も食ったことあるんだけどよお、そんな美味かった覚えはないんだよ。」


「・・・それは干物に失礼というやつだ。」

こんなにも美味しいのに。


「はあ・・・。お前、変わってんのな。名は?」


「イシュバーンだ。迅雷のイシュバーン。そう呼ばれている。」


豪華な飯を前に、ちょっとだけ格好をつけてみたくなった。

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