8話
「・・・しょうがない。魚を食ったのは事実だしな。」
ここで騒ぎ立てた所でどうにもならない。ここは大人しく牢屋に入ることにする。
「まったく、王族所有の船で干物泥棒なぞ、前代未聞だぜ。」
「—なあ、アンタ。ロデリアの勇者を知らないか?」
俺はふとあの船上で戦うことになった騎士達を思い出す。特に聖剣使い。目の前の剽軽な男はどことなく、体格などの雰囲気がその聖剣使いとよく似ていると思った。
「ロデリアの勇者、か。それは俺の弟だな。」
「・・・・・・」
やはり思った通り、ロデリアには勇者が実在した。そして、それはあの聖剣使いと同じ人物だろう。
「どうした?さすがにロデリアのデュライといえば、知らん奴はいないか。俺の弟なんだよ、すげーだろ?我が弟ながら、他に自分の婚約者がいるのに、今は姫様にぞっこんというのがいかにも勇者らしいぜ。」
「・・・ああ、びっくりしたよ。」
「だがよ? ロデリアで最強は、勇者デュライではないんだぜ?・・・ 誰だと思う?」
剽軽な騎士はニンマリと笑いながら少し含みのあるような言い方をする。
「—おい。無駄口がすぎるぞ。」
すると、騎士団長であるアルスが、剽軽な騎士に向かって咎めるような言い方をした。その声に剽軽な騎士はバツが悪そうに引き下がる。
その騎士は自らの弟を勇者であると言い、そしてその男がロデリアで最強の存在ではないと言う。通常ならば驚くべきことであるかもしれないが、しかし俺は、かつて存在したロデリアという国で、誰が最も強者であったのかを既に知っていた。
——あのラスティアという女
俺が地道に迅雷や雷切の鍛錬を来る日も来る日もやっているうちに、才能を持つ者はさっさと先に行ってしまう。もちろん、ラスティアが魔法を訓練していないとは思わないが、一国の王女である。少なくとも俺よりは遥かに多忙であることだろう。
ラズリーがラスティアの転生先であるとすれば、きっとラズリーもいずれはラスティアに追いつくときが来るかもしれない。そうであれば、彼女は俺の随分と先を行くことになるだろう。それこそ、勇者となったハーヴェルに肩を並べ、あるいはそれすら追い越すほどに。
そんな時が来るのを見たいような、見たくないような——
「・・・まったく、嫌になるよな。」
「あん?何か言ったか?」
「そうだ、飯だ!飯を頼む!!」
ガシッと鉄格子を掴む。下手に物思いにふけるより、今は飯の心配の方をするべきだ。
「——やれやれ。お前たち、戻るぞ。」
アルスがそう言うと、騎士達はぞろぞろと、牢屋のある部屋から上へ続く階段を上り、去って行った。
こうなった以上、干物をさっさと食っておこなかったことが悔やまれる。
ラスティアに咎められようが、騎士団に囲まれようが、それこそ飯であるので腹の中に入れてしまえばそれで良かったのだ。それをもたもたと有難く口に咥えたままにしておく阿呆が一体どこにいるのか、と嘆いたところで致し方なし。
「ぬおお~~~、さっさと食っておけば~~~!」
この妙ないつの時代とも分からない世界で何かを急ぐ必要はないだろうが、困ったことに腹は減るのだ!!!
牢屋の中で何もすることもなく、ただただ腹が減るというのは、我慢できないものがある。
「——いっそ、脱獄するか。」
鉄格子をガシッと掴む。
この程度であれば、牢屋から出ること、それ自体は簡単にできるだろう。
そもそもこの船は軍用船というよりは、民間船に近い。そのため、牢屋の作りはそこまで厳重なものではないようだった。
「・・・だがなあ。脱獄したとして、ラスティアや勇者や騎士団長といった連中が出てくる可能性があるんだよな。」
ラスティアの強さはもう嫌というほど知っているし、勇者とやらも船の上で戦ったときよりも、きっと随分と強力であることだろう。少なくともこの二人はあの騎士団長より実力的に上であるに違いない。そして、騎士団長と戦闘になった場合ですらかなり厳しい戦いになるというのが俺の見立てだった。
・・・しばらくは大人しくしておくか
だが、人間、限界というものがある。空腹が限界を突破したら、脱獄でも何でもしてやることにしよう。
それからしばらくして。
「暇だ・・・。」
俺は未だ船底の牢屋にいた。
意外に空腹は何とかなっているが、この牢屋では何もすることがないのだ。
魔法の鍛錬はできないこともないが、今はマナポーションを持ち合わせていない。鍛錬のために貴重な魔力を消費するわけにはいかないのである。
かといって、闘気の鍛錬をするにも、飯を補給できていないので、鍛錬をすればするほど、腹が減ることは明らかである。
「・・・兵糧攻めというものがいかに有効か分かるな。」
―やはり改めて食の重要性を感じざるをえない。食こそ正義、食こそは全てである
そんなことを考えていると、
コン、コン、コンと階段を降りてくる音が聞こえてきた。




