7話
「おわっ!!」
誰もいないと思っていたので、背後など全く気にはしていなかった。
「誰・・・だ?」
よく見ると、ラズリーに瓜二つである、が、ラズリーではない。髪の毛はラズリーと同じ髪色であるが、ツインテールではなく、まるで絹糸のように滑らかなストレートである。
「それ。私のなんだけど。」
どうやらこの袋の中に入っている菓子類は彼女のもののようだ。
「いや、すまん。取るつもりはなかった。」
「・・・それ、ここの倉庫のじゃないの?」
「ん?」
―しまった
俺は魚の干物を咥えたままだった。
「・・・これには深いわけが。」
俺の後ろには、いつの間にか大勢の人々が集まっているようだった。
―は?
どういうことだ??
「貴方。泥棒じゃ、ないわよね?」
「ご、誤解だ!これはたまたまそこに置いてあっただけで―。・・・あ。」
「ふぅん?」
その女は目を細める。
「何だ何だ、姫様。泥棒だって?」
騎士達の中から、人込みをかき分けて、ひょろりとした剽軽そうな男がこちらにやってくる。
―姫様
ああ、やっぱり。
「——おまえ、そんなに魚が食いたかったのか。」
そいつは俺の口元にある魚の干物を見る。
「ち、違う!」
いやいやいや、そもそもこんな大勢の人間なんていなかったぞ!?
だが、どうやって説明したものか!?
「・・・干物ぐらい一言断っておけばいいものを。だが、泥棒は泥棒だ。観念することだな。」
すると、後ろから、いつか見た騎士の格好をした者がわらわらと集まって来て、その内の一人が、がしりと俺の肩を掴む。
―く、くそ!何とかしなければ!!
「・・・これ、全部食っていいか?」
——いやなんでやねん!!!
しかし、咄嗟に口から出て来た言葉は自分でも思いがけない、そんな言葉だった。
拍子抜けをした様子で、顔を見合わせるラスティアと騎士達。
「・・・ダメよ。」
ラスティアはそう言うと、ひょいと手を伸ばして俺の口から干物を奪い取ってしまう。
「ああ!!!」
まだ全然食っていないのに!!!
「アルス。連れて行って。」
「了解だ。」
騎士団の中のとりわけ屈強そうな男が返事をする。無精髭だが、決してそれが清潔感を損なわない。いわゆるイケオジに当たるのだろうか、壮年の男性がそう言うと、アルスと呼ばれたその男は俺を掴む騎士達に顎で合図をする。
「——オマエ、干物泥棒たあ、いい度胸じゃねえか。」
その合図に反応した騎士の一人が軽く笑いながら俺の肩を掴んだ。先ほどのひょろりとしたノリの軽そうな男である。
「干物泥棒ちゃうわ!」
俺は自信の名誉と尊厳のために言うが。
「―干物泥棒じゃなければ、何なのよ。」
相変わらず目を細めたままのラスティア。
「それは・・・!」
「ははは!観念しな!――連れていけ。」
アルスと呼ばれた男がそう言うと、俺の周りに集まっていた騎士たちが短く返事をして、そのまま俺を連行する。
そうして、連れてこられた先は船底にある牢屋だった。
「・・・こんな場所があったとは。」
もちろん、先の探索では全ての部屋を見て回ったわけではなかった。
「そりゃ、王家直属の船なんだから、牢屋くらいあるだろ。」
俺を掴んだまま離さない、ひょろりとした騎士がそんなことを言う。
「おまえさん、見ない顔だが、どこから来た?」
別の騎士が訊ねる。
―どう答えたものか?
「・・・・・・」
俺は答えに窮してしまう。
「変わった格好しているしよ、ロデリアのもんじゃないよなぁ?どこから来た?」
ひょろりとしたノリの軽そうな騎士はそう言いつつ、俺の肩を掴みどんどん先へ押し出してくる。
「はあ・・・。エルドリアだ。」
「エルドリアだあ!?どうやってこの船を知った?」
「・・・知らん。気が付いたらこの船の上にいたんだ。」
とりあえず正直に答える。
「んで、腹が減ったから干物を奪ったと。」
「奪ったとは人聞きが悪い。ちょっと拝借しただけだ。」
「食っておいて拝借したとは言わねえと思うぜ?ま、問題はそこじゃ、ねえんだが、な、と。」
そう言うと、そいつは牢屋の扉を開け、
「ここに入って大人しくしてるんだな。」
ほれほれと顎で牢屋に入れと示す。
「・・・何か飯をくれないか。」
ダメ元で聞くことにした。本当に腹が減ったのだ。
「食い意地だけは一丁前だな?」
そんなやり取りをしていると、少し遅れて、後ろから先ほどのアルスと呼ばれた男がやって来た。
「どうだ、様子は。」
「団長、こいつ、食い物はないか、だってよ?」
呆れた様子で言う騎士。
この船で見たほぼ全ての騎士たちからは強者のオーラを感じるが、やはりこいつらは近衛騎士と考えて間違いない。それは先ほどから軽いノリで話しをしている目の前の男も例外ではない。
そして、そんな騎士達から団長と呼ばれたアルスという男は、近衛騎士団の団長ということになる。仮に決闘でやり合ったとしておそらく俺が勝てる相手ではないだろう、というのが直観的に理解できた。
「ふん。まったく。食い意地をはるのも大概にしとけよ?」
呆れた様子でそれだけ言うと、騎士団長はこちらに興味をなくしたように見えた。




