5話
――――おや、また来たのかい? お前さんも懲りないねえ
―――
――
―
キュイキュイと海鳥の鳴き声が聞こえて来た。
「・・・?」
穏やかな潮風を感じる。
目を開けると、真っ暗だった外の景色はいつのまにか明るくなっていた。
「・・・船の上にいるのか?」
どうやらいつの間にか眠りこけていたようだ。
だが、おどろおどろしい船の気配はなく、すっかり日が昇っているようだ。
「・・・みんなは?」
耳を澄ましても、穏やかに波に揺れる音のみである。
――誰もいないのか?
よろよろと立ち上がる。
「・・・喉が渇いた。」
腹も減っているが、それよりも水が欲しい。どこかに水はないだろうか?
俺は自分の今いる場所を確認する。
「場所は――。先ほどの船、か・・・?」
それにしても、静かだ。
ラスティアとやり合っていたのが嘘のようだが、彼女はどこに行ったのだろうか?
しかし、それよりもまずは水だ。喉の渇きを潤す必要がある。
「確か、ここに来るときに水袋も持って来ていたよな?」
どこに置いたかよく分からないが、食堂にそのまま置きっぱなしにしているかもしれない。
―食堂に戻ってみるか
いつラスティアから攻撃を受けるかは分かったものではないが、明るいうちに補給できるものは補給しておきたい。
食堂に戻ってきたが、ボロボロだった部屋の様子はどこへやら。
綺麗に整頓されたテーブルに、クロス。手入れが行き届いている様子が見えた。
正面には、あんなにボロボロだった旗も、ビシッと皺ひとつなく、壁にかけられている。
「・・・蛇、か。」
蛇に、聖杯。
「確か、この辺りに―」
だが、荷物を置いたはずの場所に、俺のいつものズタ袋はなかった。
「・・・困った。」
まさか海水を飲むわけにはいかない。
とにかく、船の中に水がないか探してみよう。
果たして食堂の奥には、ワインに食料、そして、水の入った樽があった。
「・・・まあ、無人の船だしな?」
少しぐらい拝借しても構わないだろう。
奥の棚には、コップや皿などの食器類も丁寧に配置されていた。
そこからコップを一つ取り出し、樽の中の水を汲む。
「―ぷはっ!」
生き返る心地がする。
「考えてみると、水属性って便利だよな?」
俺は水属性の魔法を扱うことができないので詳しいことは分からないが、きっといつでもどこでも、必要なときに水を出すことができるのだろう。
なんせ、人間の半分以上は水でできているのだ。水属性が不便なはずがなかった。
―そういえば、あのとき
ラズリーであれば、自分で水を用意することぐらいできたはずだ。
「つまり、自分で水を準備することもできない状況だったのか。」
だが、それに気が付いたところで、彼女のために俺に何ができたというだろう?
確かに、少しは強くはなったかもしれない。しかし、だからといって強くなることで全ての問題が解決するわけではないのだ。
―まったく、嫌になるよな
俺はコップの水をぐいっと飲む。
ひと心地ついたところで、これからどうするべきかを考える。
―まず、ここはどこか、ということについてだが・・・
ここは、ラスティアとドンパチしていた船ときっと同じ船だろうか?
確かに姿形はほぼ同じであるといってよい。
「だが、こんなに食べ物が保存されているのは明らかにおかしいよな?」
あの船は、もう何十年、あるいは百年以上も海の上を彷徨っていたという話だったはずだ。
であれば考えられる可能性は一つ。
「つまり、俺はこんなときに、またしても訳の分からぬ世界に迷い込んでしまったのか。」
まったく、本当に勘弁してほしいが、今回ばかりは助かった。
世界がどこであろうと、腹は減るし、喉は渇くのである。




