7話
「それで、これからどこへ向かうんだ?」
この船の食堂は広い。いくつか扉があり、それぞれが別の場所へ繋がっているようだった。もしかすると、この食堂は他の用途、たとえば作戦会議室などにも使われていたのかもしれない。
「まずは操舵室に行ってみようと思う。誰かがこの船を動かしていたのであれば、その形跡があるかもしれない。」
ガーランドが答える。
「今となっては、そんな形跡があって欲しいよね・・・?」
レティが呟く。
「・・・このような不気味な船は初めてだ。」
まるで今気が付いたかのようにハーヴェルが言う。
「—ハーヴェル、お前、今の今までこの船を何だと思っていたんだよ?」
俺からしてみれば、乗る前から異常な船であることは明らかだったが、この戦闘異常者は、あくまで力ずくで解決できる問題だと思っていたのだろうか?
「何を言う、イシュバーン。俺は先ほどの話を聞くまでは何らかの魔法による状態異常であると思っていたし、どちらかと言えば、今もそのように思っている。」
確かに、幻覚の類であることも否定できない。しかし、そうであるなら、俺たちは今どういう状況にあるのだろうか?
「ガーランド、操舵室へ向かうためにはどの扉からだ?」
「ああ。操舵室は船の後方にあるだろう。おそらくは後ろの扉を進んだ先にあると思う。」
俺たちは船の前方から来て、部屋の前にある扉から入って来たので、そのまま後ろの扉をまっすぐ進んだならば船の後方に辿り着くかもしれない、ということだろう。
「よし、分かった。では進もう。」
どうやらこれまでの流れで俺が先頭に立って進むことになったようだ。
俺はガーランドの示した扉を開けて、先へ進むことにする。
―キィ
俺が扉を開け、そして念のため、レティがそれを破壊する。
ギシッ、ギシッ
船の床は木張りであり、床を踏みしめる音が響く。そうしてしばらく先へ歩いて行くと、船の上へと続く階段が見えた。
「―この上か?」
そのまま階段を上っていくと、舵のある部屋に辿り着いた。
「・・・これは。とてもではないが、人がいたとは思えないな。」
ハーヴェルが部屋を見渡しながら言う。
俺たちが見たのは、埃の積もった操舵室と、錆びてボロボロになった鉄のハンドルだった。
ガーランドは舵に手をかけて、それを動かしてみようとする。
「まるで何かに絡まったように重い・・・。」
ガーランドが舵から手を離すと、ハンドルの錆がガーランドの手に付着しており、ハンドルにはガーランドの手形が残っていた。
ハンドルにはガーランド以外の手形はない。
「まさか、本当に幽霊船だというのか!?」
ハーヴェルも錆び付いたハンドルから目が離せないようだ。
「―え?」
ふいに、ラズリーが何かに気が付いたように言った。
そちらを見ると、何かに戸惑うラズリー。
「どうした、ラズリー?」
俺はラズリーに声をかける。
「え?あ、ううん、何でもない。何か声が聞こえた気がしたの。」
「声??」
耳を澄ますが、辺りは時折船が軋む音が聞こえるだけで、俺たち以外の他の人間の声は聞こえない。
「ううん、何でもない。――疲れちゃったのかな・・・。」
そう言うと、ラズリーはふうっと大きく息を吐く。
「レティ、何か聞こえたか?」
ラズリーのすぐ隣にいたレティに確認することにする。
「ボクは何も。でもそろそろ帰りたいなあ・・・なんてね?」
レティもラズリーと同じく無理をしているようだ。
俺も今すぐにでもこんな船からは脱出したいのは同じである。例えば―
「窓を割って外に出るのはどうだ?」
そう言うや否や、ハーヴェルは側面にある窓ガラスに対して剣の鞘を思い切り叩きつける。
しかし、
かなりの勢いで鞘を叩きつけたにもかかわらず、カンッと音がして鞘が弾かれるだけだった。
「―レティ。船の壁に向かって魔法を使って穴をあけることはできないか?」
この船の壁は見る限り、木製である。鉄の扉は船の中に入るために最初に開けた扉だけだ。
「・・・魔法が効かないみたい。」
レティは、操舵室の扉に触れるが、これまでとは異なり扉に何の変化もないようである。
―どうなっている??
これではまるで俺たちは異界に閉じ込められたみたいではないか。




