6話
「だが、本当に何もいなければ、この船から救難信号が発せられるはずがないだろう?あるいは誤作動か?」
ハーヴェルが口を開く。
「・・・救難信号は音響信号による、意味のあるものだった。誰かが音響用の魔道具を操作しない限り作動するとは思えない。」
ガーランドがハーヴェルの疑問に答える。
「果たして敵かどうか、ということか。だが本当に助けを必要とする存在であれば、このような手の込んだ真似をするとは思えないな。」
ハーヴェルにしては真面なことを言う。
「・・・敵か味方か、それ以前に人かどうかも怪しい。だが相手が人であれ魔物であれ、形ある存在である限り、俺のトレースに何かしらの反応があるはずなんだ。」
「つまり、人でも魔物でもない存在ということか・・・。そんなことがあるのか?そんなのまるで本当に御伽噺の—」
「海賊なんかしていなくても、船乗りならば、幽霊船を見たというのはよく聞く話さ。・・・実際にその船に乗ったという連中は皆無だろうが。」
俺は、ガーランドとハーヴェルの会話を聞きながら、あることについて気になっていた。
俺が今ちょうど目にしている紋様は、テレジア公爵家にあったものだ。もちろん、テレジア家の家紋とも異なるものである。
確かに、どこかの客人のものであるという可能性もある。しかし、あれは何かの土産物などではなく、正しくロデリア聖王国のものだろう。もしかすると・・・
「しかし、百年以上も前の時代に今でも通用する魔道具が存在したとはな?」
ハーヴェルが何かに気付いたように言う。
「・・・ロデリア聖王国は、魔法王国エルドリアよりも魔法が発展していた可能性すらある。何も不思議なことなんかではないさ。」
「―そんな国がどうして滅びた?」
「俺も詳しくは知らない。有り体に言えば、革命だろう。ゼヘラという連中が起こしたらしい。」
―ゼヘラ!?
「―まさか、血のゼヘラか!?」
俺はガーランドに思わず聞く。
「・・・知っているのか?そうだ。革命時に多くの血が流れたために、そのように言う者もいたと聞いている。」
「・・・革命だったのか。」
―そんな話は初めて聞いた。
「そのようだ。特に、ロデリア聖王国、最後の王であるサフィラが処刑されたのが、一隻の船の上であったと聞いている。もっとも、現在までそんな船は確認されていないが・・・。」
「「・・・」」
俺たちは皆黙ってしまう。
「―つまり、この船が、それだって可能性が・・・。」
レティが青ざめた顔をして言う。
「・・・それも否定はできない。」
ガーランドは俯く。
「―何よ、それ。そんなの、本当に幽霊船じゃない。」
ラズリーが声を震わせる。
「なあ、ガーランド。ゼヘラというのは一体どういった連中なんだ?」
俺は、幽霊の話云々ではなく、ゼヘラという連中のことが気になっていた。正しく同じ存在であるかは定かではないが、ゼヘラは今もなお存在している。ロデリア聖王国に関係するものが、テレジア公爵家に存在したことも気になる。これまでラズリーが狙われたのは、単に魔族を召喚するためだと思っていたが、そんなに単純な話ではないようにも思えてくる。
「単に、革命軍の名前だったようだ。だが、ただの革命軍程度に、聖王国の王家が皆殺しにされるとは到底思えないが・・・。すまないが、俺も詳しくは知らない。」
「イシュバーン、ゼヘラってもしかして・・・。」
ラズリーが俺に訊ねてくる。
「―ああ。だが、同じ存在かどうかは分からない。」
とはいえ、あのようなおぞましい連中がゴロゴロいたのであれば、いかに魔法技術が発達した聖王国といえども、太刀打ちできなかったかもしれない。
―ゼヘラの目的が魔族の召喚であり、それが今も昔も変わらないというのであれば、わざわざ聖王国の王族を皆殺しにした理由は何だ??
「・・・つまり、当時の目的を達成するために今なお動いているということか??」
俺は誰知れず呟く。
「―何か言ったか、イシュバーン?」
ハーヴェルが怪訝な表情をしてこちらに聞いてくるのだった。




