2話
―原作では、ハーヴェルはフライの魔法を使用しなかったな?
原作では、風属性に適性のあるハーヴェルのレベルを上げても、フライの魔法を使用することはできなかった。しかし、今ガーランドはそれを使ってみせた。もしかすると、ただ魔法の属性に適性があったとしても、得手不得手があるのかもしれない。
―しかし、俺が一向に詠唱魔法を使用できないのはどういうことだろうか?
少し疑問に思うが、そもそも俺の魔法の使用の仕方が妙なので、あの迅雷や雷切といった魔法モドキに特化してしまっている可能性はある。
船は不気味に揺れ動き、その軋む音がやけに響く。
「では行くぞ。――特に、そこのお前。遅れるなよ。」
ガーランドが俺を見て言った。
―まったくこいつはハーヴェルよりも厭味ったらしい
だが、相手にすると面倒なことは火を見るよりも明らかなので、
「ああ、問題ない。」
そう言って流すことにする。
船内には、古ぼけた扉を開けて入るようだ。
―ギィッ
俺たちは船内に足を踏み入れる。
俺たちは恐る恐るという形で中に入るが・・・
「―こいつは・・・」
ガーランドが口を開ける。
船内は船にしてはやけに広い。所々存在する窓から差し込む月明かりによってわずかに周囲が見える。
―バタンッ
船の扉が閉まる音が響く。
最後尾にいた俺は、閉められた扉を開けようとノブを回すが、その金属の扉はまったく開かない。
「―こいつは、誘われているな。」
「俺も確かめる。」
ハーヴェルがこちらにやってきて同じように扉をガチャガチャと開けようとするが、やはり動かない。
「どうする?破壊しておくか?」
俺はハーヴェルに確認する。
「そうだな。俺が魔法剣で破壊しよう。」
すると、ハーヴェルが構える。
俺の迅雷で破壊することもできるだろうが、ハーヴェルがやるというのであれば、燃費の悪いあの技をあえてこの場で発動させることはないだろう。
「皆、下がっていろ。」
そして、ハーヴェルは構える。
「―天よ、地よ、鳴動せよ。我が名はハーヴェル!魔法剣!!」
――ズゥゥゥゥン
まばゆいばかりの閃光が煌めき、凄まじい熱量が扉を直撃するが―
「・・・なに?」
ハーヴェルが驚いたように目を見開く。
圧倒的な熱を受けたその扉は、本来木っ端みじんになっていてもおかしくないはずだが、未だそこに無傷で存在した。
「そんなバカな!もう一度だ!!」
声を荒げるハーヴェル。
―これはあれと同じか?
思い出したのは、あの蛇の吐き出した魔法を弾くという岩である。
「待て。少し調べさせてくれないか?」
俺は皆に言ったつもりだったが、
「―いいだろう。早くしてくれ。」
ガーランドが答える。
―別にガーランドの許可を得る必要はないと思うんだが
しかし、こんな場所で言い争うのも面倒なので、俺は呆然とするハーヴェルの前に出て、ごく短い雷切を密かに発動させる。
―もしあの岩と同じであれば、これでも十分に傷をつけることはできるはずだ
だが、俺の雷切で扉に傷をつけることはできなかった。
「・・・」
――どうなってやがる?
「―どうだ?」
ガーランドが俺に聞いて来る。
「確かに、この扉に傷一つないな。」
「閉じ込められたか。・・・そういうこともあるだろう。」
ガーランドが手を顎に当てて何かを考える。
俺はその様子に違和感を覚えた。
「貴様は、この船がどういうものであるのか知っているのか?」
何となく、ガーランドはこの船がどういうものであるのか知っているのではないかと思った。
「おいおい、口の聞き方に注意しろよ・・・。俺も詳しいことは知らない。だがあえて言えることがあるとすれば・・・。この船は本来存在してはいけない船ということだけだろうさ。」
「どういうこと?」
ラズリーが声を出す。
「さあ? 俺も詳しいことは知らないと言ったよ? さあ、先に進むぞ。」
ガーランドは扉に固執しようとはせず、そのまま中に入っていく。
俺にはガーランドはこの船が何なのかということを知っているように思える。しかし、今ここでそれについてガーランドに聞き出そうとしても、奴がそれに答えることはないだろう。




