1話
それからしばらくすると、海賊船から再び船がこちらに来るのが見えた。
「ガーランドという男とはどういう関係なんだ?」
こちらに来る船を見ながら、俺はレティに訊ねる。
「ガーランドは、ボクと同じセルペタの貴族の出なんだ。いわゆる幼馴染ってやつかな。」
確かに、ガーランドの立ち振る舞いなどには、海賊に似つかわぬ気品のようなものが感ぜられる。
「レティは昔からガーランドをよく知っていたのか。」
「・・・うん。でもある日突然見かけなくなった。実家から追放されたって。ボクも何があったのか、あまり詳しくは知らないんだけどね。」
こちらに近づいて来るガーランドの船を見ながら、レティは言う。境遇としては俺と似ているのかもしれない。
「――ところで、キミは泳ぐことができるの?」
レティは、眼下に広がる今はわずかな波音を立てるだけの暗い海を見る。
「もちろんだ。レティは泳げないのか?」
一応、人並みに泳げるし、何より今回は秘密のアイテムがある。
「いや、泳ぐことはできるけど・・・。」
そう言うと、レティは船の下に暗く広がる海を見て。
「こんなところでは泳ぎたくないよね・・・。」
当然、俺もこんなところで泳ぎたくはない。秘密のアイテムがあるとはいえ、海の下にはどんな化物がいるか分からないからである。
「・・・ラズリーさ、凄いよね。」
レティが急にそんなことを言う。
「どういう意味だ?」
「あんな船、ボクは、とても乗り込もうだなんて思えないよ・・・。」
そう言うと、レティは波間に不気味に漂う光の灯いていない船を見る。
「しかし、レティもあの船に行くのだろう?」
「それは・・・。ボクだってできればあんな船の中には行きたくないさ。でも、ガーランドをこのまま放っておくのも、ちょっとどうかと思ったんだ。」
「腐れ縁ってやつか。」
「・・・そこまでの関係じゃないんだけどね?でも、いいなあ、ラズリーは。こんなナイトがいるんだから。」
そう言うと、レティは悪戯っぽく俺を見る。
「俺は単なる護衛にすぎない。それにこの仕事、金払いが良いからな?」
俺は指先で丸のマークを作ってニヤリと笑う。
「じゃあ、お金を払えば、ボクも守ってくれる?」
―やけに俺に絡んで来るな?
だが、同時に二人を護衛することなど可能だろうか?
「・・・条件次第だ。」
俺はお茶を濁すことにする。
「・・・うん。」
そう言って遠くを見るレティだった。
「さて。準備は整ったかい?」
こちらの船に乗り込み、開口一番、こちらの準備の状況を聞いてくるガーランド。しかし、こちらが準備できようができてなかろうが、これからあの不気味な船に行くのだろう。
「ああ。もちろんだ。」
これに対して、ハーヴェルが答える。その様子から、やる気に満ち溢れていることが分かる。
「他の皆はどうだ?」
そう言うと、ガーランドは俺たちを見渡す。
「―問題ないわ。行きましょう。」
ラズリーが答えた。ハーヴェルとは逆に、少し緊張した様子である。
「――良し。それでは出発する。俺たちが使った船に乗ってくれ。」
そう言うと、ガーランドは、俺たちの船にちょうど横付けされた小舟を指さした。
そうして、俺たちはゆっくりと問題の船に近づいて行く。
だが、小舟から、あの不気味な船までどうやって上るつもりだろうか?先ほどガーランドがこちらの船に乗り込むときは、俺たちの乗る船から降ろした縄梯子を使用したが、あの船にはそもそも人の気配が全くない。
「どうやってあの船に乗り込むつもりだ?」
「こいつを使うのさ。」
すると、ガーランドはカギ爪のついた縄を取り出し、俺に見せてくる。しかし、少人数とはいえ、さすがにこんな縄一本では人を運べるとは思えない。
「縄一本はさすがに無理があるだろう。」
「問題ないさ。魔法があるからな。」
そして、問題の船に近づくと、小舟にその端をくくりつけると、ロープを器用に投げ、その縁に引っ掛ける。
「風の神エアリイよ。我ら、大空を舞う鳥のように我らも羽ばたくことを願う。より遠くへ、より高くへ。我らは大空をかけよう。フライ。」
すると、俺たちの身体がふんわりと浮くのを感じた。
ガーランドは自在にフライを制御できるようで、先に船の上まで飛んで行き、こちらに、上へ行くことだけを考えれば、フライが運んでくれるはずだと言う。
―上へ
すると、俺の身体はふんわりと浮き、空中をするすろと上がっていく。少しの間浮遊して、ハーヴェル、レティ、ラズリー、そして俺の順番で船までたどり着いた。




