21話
まだ予定の時刻まで少し時間がある。
レティから借りた双眼鏡を覗いていて、船のマストにあるボロボロの旗を見て、俺はあることに気が付いた。
――聖杯に蛇の紋様
それに俺は見覚えがあった。公爵家に訪れたとき、同じようなものを俺に割り当てられた部屋で見たことがある。
「・・・あれは何だ?」
あんなものは原作では登場しないし、俺の記憶にある国々の旗にもない。
――ラズリーに確認してみるか
ラズリーの所に行くと、彼女はスティックを持ち、目を閉じて何事かをブツブツと唱えているのが聞こえる。集中しているのが分かる。ラズリーはスティックがなくとも魔法の使用に問題はないはずだが、もしかすると、今回は船に持っていくつもりなのかもしれない。
「ラズリー。ちょっといいか?」
すると、ゆっくり目を開けて、
「なあに?」
魔眼を使用すると、ラズリーの周囲に魔力が集まっているのが見える。ただし、その見え方は、俺のように自分自身を魔力の不規則なうねりで覆うというような見え方ではなく、光の泡がふんわりとラズリーの周りに集まり、それがゆったりとラズリーの周りで揺れ動くような見え方である。
おそらくは魔力を集中させているのだろうが、俺の魔力集中のやり方とは随分と異なるやり方である。
「ああ。あの船の旗を見てくれないか?」
そう言って俺はレティから借りた双眼鏡をラズリーに渡す。
「・・・旗?」
ラズリーは双眼鏡を受け取ると、それを覗く。
「あれに見覚えはないか?特にあの紋様。」
「うーん・・・?杯?いえ、きっと聖杯ね。それに蛇かしら?」
「それだ。それに見覚えはないか?」
「いいえ、あんな紋様は見たことないわ。きっとどこかの貴族の家紋かしら?」
ラズリーは双眼鏡を覗くのをやめて、双眼鏡をこちらに返す。
「あれと同じものを公爵家の部屋で見た。この前招待してもらったときだ。」
「――公爵家と何か関係が?でも、私はそんなの見たことないわよ?それ、どこにあったの?」
ラズリーは腕組みをする。
「この前俺が泊った部屋の引き出しの中だ。」
「・・・あの部屋は来客用で普段使わない部屋なのだけれど。もしかすると、誰かが部屋に忘れて言ったのかしら?」
「なるほどな。忘れ物か。」
「ソフィーが何か知っているかもしれないわね?」
そう言うと、何事かを船員と話し合っていたソフィアを呼びに行くラズリー。
ソフィー、ちょっとこちらへ来てくれる?少し離れた場所からラズリーがソフィアに話しかける声が聞こえてきた。
「―何でしょうか?」
「ああ。ちょっとあの船の旗を見て欲しいんだ。」
俺はそう言うと、先ほどと同じような感じでソフィアに双眼鏡を渡す。
「旗・・・ですか?」
ソフィアは双眼鏡を覗き込み、
「・・・あれは、何かの紋様、どこかの家紋・・・でしょうか?ですが、はっきりしません。」
やはりソフィアもラズリーと同じようなことを言った。
「ソフィアは見覚えがないか?」
「いえ、あのような紋様は見たことがありません。」
「ねえ、ソフィア。この前イシュバーンに泊ってもらったお部屋なんだけど、あの部屋は来客用の部屋で、私たちは使用しないわよね?」
「はい。お嬢様。その通りです。あの部屋は、お客様用の部屋で、私たちも使用することはありません。」
「イシュバーンがあれと同じものをあの部屋で見たと言うの。」
「それは本当ですか?」
ソフィアはこちらを見る。
「ああ。あの部屋の引き出しの中に、古ぼけた置物、おそらくはペーパーウェイトだと思うが、それにあれと同じ紋様が刻まれてあった。」
「・・・もしかすると、お客様のどなたかがあの部屋にお忘れになられた物かもしれません。シュベルツ様に聞けば、何か分かるかと思います。」
「そうね。帰ったら確認してみるわ。上手くいけば、あの船の所属先について何か分かるかもしれない。」
――だが、あれは果たして来客の誰かの忘れ物だったのだろうか?
『あの船に行っちゃだめだ!』
ソフィアとラズリーの話を聞きながら、釈然としないものを俺は感じていた。
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