20話
「―構わないわ。」
ラズリーが真っ直ぐにガーランドを見据えて言った。
「おい!馬鹿なことはよせ!」
「―そこの男。君は彼女の何だ?」
「彼は私の護衛よ。そして、彼に決定権はないわ。」
「・・・そうだ。」
実に苦苦しい。しかし、今この場での俺の立場はラズリーの護衛であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「なら、君の意見よりも彼女の意見を優先するのは正しいことだな。」
「待て!ラズリー!一体何を考えているんだ!?」
流石に黙ってはいそうですかと見過ごすわけにはいかない!
「ごめんね、イシュバーン。でも、この船が動かないんじゃ、他にどうすることもできないと思うの。・・・貴方も付いて来てくれる?」
「・・・当然だ。」
ここでラズリー一人を行かせるわけにはいかない。
「―そういうわけ。私の護衛も連れていくことになるけど、問題ないわね?」
「そこの男が役に立つとは思えないが、君がそうしたいなら、そうすればいいさ。」
―嫌味な男だ
本気を出せば、ガーランドを今ここで倒してしまうこともできるかもしれない。しかし、どうやら先ほどからの船員の様子からしても、船が動かないのは本当のことのようだ。そして、残念ながら、船や海に関することについては、俺よりもガーランドの方が詳しいことは明らかである。それを考えれば、たとえ相手が海賊であるとしても、この場に限ってはガーランドの意見を尊重することが正しいことのように思われた。
「お嬢様、よろしいのですか?」
ソフィアが今一度ラズリーの意思を確認するが、
「ええ。イシュバーンも付いて来てくれるというし、問題ないと思うわ。ソフィー、念のため、貴女はこちらで待機していて頂戴。」
どうやらラズリーの意思は固いようだ。
「――承知しました。」
ソフィアもラズリーの意思を尊重するようだ。
「・・・ごめんね、ラズリー。こんなことに巻き込んでしまって。」
レティが申し訳なさそうにする。
「いいのよ、レティ。今ここで私に何かできることがあれば、そうした方がいいと思うの。」
「―決まりだな。あちらの男の方にも伝えておこう。君たちも来てくれ。」
そう言うと、ガーランドはレティとラズリーを伴い、ハーヴェルの方に向かって行った。
ガーランドが離れたのを確認してから、ソフィアはこちらへ寄って来て、小さな声で言う。
「危険を感じたならば、何よりもまずお嬢様の身の安全を確保し、お嬢様の意思によらず避難させてください。貴方ならば可能でしょう?」
「―ああ。分かった。必ずそうする。」
いざとなれば全力を以て、ラズリーを守ることを約束する。
「ソフィアはここに残るのか?」
いつものソフィアならば、ラズリーに付き添うと思っていたが、この船に残ると言う。俺にとっては意外なことである。
「―はい。私では足手纏いになる可能性があります。それに、万が一、向こうで何かあった場合に、こちらに残っておくことで何かお手伝いできることがあるかもしれないと思いました。」
ソフィアの言う通りだった。慣れない海の上ではどんな準備をしても、し過ぎることはない。俺も切り札となるべき隠しアイテムを装備しているといっても、それだけでは心もとないということも確かである。
ハーヴェルの所に行ったガーランドを見ると、ハーヴェルが大きく頷き、プリムとアイリスが何やら慌てているのが見えた。きっとハーヴェルはガーランドの提案を二つ返事で引き受けたのだ。
ガーランドはそのまますぐに離れ、先ほどの髭面の男の待つ小舟へ向かった。その様子から、調査の予定などは既にレティやラズリーには伝えているのだろう。
レティとラズリーは、ハーヴェルを含めた三人で少し話をして、すぐにこちらへ戻って来た。
「どうだった?」
俺は二人に確認する。
「ええ。数刻後、ガーランドがこちらへ迎えに来るから、それまでに準備をしておくように、と言ったわ。」
ラズリーが答える。
「何だかごめんね、こんなことに巻き込んじゃって・・・。」
「レティ、構わないさ。」
そう言って俺は、うなだれるレティの肩をポンポンッと軽く叩iいた。




