19話
少し遠目から見るしかなかったが、こちらの船に乗り込んできたのは、どうやら若い男と、髭面の男のようだった。
「―ガーランド・・・。」
レティが呟く。
「あの髭面の男がガーランドか?」
「ううん、違う。もう一人の方。海賊団長が自ら乗り込んで来るとは思わなかった。」
「知り合いなのか?」
「あはは・・・。ちょっとね・・・。」
そう言ってレティはお茶を濁す。
ガーランドは、しばらくこの船の船員と話し込んでいたようだが、ふとこちらを見て、そしてレティの存在に気が付いたようだ。すると、失礼というジェスチャーを船員にした後、こちらにやってきた。
「レティじゃないか!こんなところで何をやっているんだ?」
「ガーランド・・・。久しぶり・・・。ボクもこんなところで出会うとは思わなかったよ・・・。」
レティは少し気まずそうにしている。
ガーランドはその後すぐこちらを見て、
「君たちは?」
軽く声をこちらにかけてくる。
「ボクのお友達だよ!彼らに手を出したら許さない・・・!」
すると、レティは警戒するような態度に出た。きっとガーランドはレティにとって簡単に気を許すことのできる存在ではないのだろう。
「心配するなよ。今はそういった目的で来ているんじゃない。」
ガーランドはにっこりとレティに笑いかける。
―妙に上品な立ち振る舞いだな?
俺はといえば、ラズリーとソフィアの二人を背に、レティの少し後ろに控えるような位置にいた。
「それで・・・。どういうつもりなのさ?」
「―そうだね。とりあえず、あの船に乗り込んで調べてみようと思うんだ。」
すると、ガーランドは暗く沈黙し、波の上で不気味に漂う船を見る。
「そう・・・なんだね。でも、こちらに来たのは?」
「ああ。君たちの船にも優秀な魔力の持ち主がいることが分かってね。それで―。」
「まさか、ボクたちに調査を手伝わせようなんて言うんじゃないよね!?」
「何か問題が?」
何でもないというように、ガーランドは答える。
「大ありだよ!何でボクたちを巻き込むのさ!?」
「当然さ。あの得体の知れない船を調べるのにもっと戦力が欲しい。俺たちの船にも魔法使いはいるが、充分な数はいなくてね。できれば、優れた魔法使いが欲しいんだ。例えば、君のようにね?」
「・・・ボクたちを巻き込まないで。」
レティがガーランドを睨みつける。
「できれば俺もこんな真似はしたくないんだ。最初は引き返そうとしたんだぜ?でもな、舵が全く言うことを聞いてくれはしないんだ。」
ガーランドはあたかも舵を右へ左へ回そうとする。
「―それはボクたちには関係のない話じゃないか!」
レティは苛立ちを隠さない。誰に対しても笑顔を絶やさない彼女だが、他人にこのような態度をとるのを見るのは初めてだ。
「先ほど、この船の船員に聞いたところ、どうやら君たちも同じ状況みたいだぜ?」
そう言うと、ガーランドはにっこりとレティに対して微笑む。
「そんな・・・!」
レティは言葉につまる。
「―そういうこと。俺たちとしては、あの船の調査に少しでも戦力が欲しい。そして、おあつらえ向きに、この船には魔法学院の学生が乗っているという話じゃないか?・・・中には魔力のあんまりないのもいるようだけどね。」
そう言うと、ガーランドは俺の方をチラッと見て、再びレティに目を戻す。
「そして、もちろん、君も彼らに劣らず優秀な魔法使いであることは誰よりも俺が知っているよ。君が乗り合わせていたのはこれ幸いってやつさ。」
「一体誰が欲しいのさ?」
「そうだね、君と、そこの男の後ろにいる可愛い女の子。それに、向こうの男の子も欲しいかな?」
ガーランドは、ラズリーを見て、次に少し離れた場所にいるハーヴェルを見る。アウグスタはおそらくは自室に引きこもっておりこの場にいないので、ガーランドには認識されていないのだろう。
「断る。許可できない。」
俺はきっぱりとガーランドに言う。
「おいおい、それは君たちの決めることじゃないぜ?決定権は俺たちにある。」
ガーランドは少しふざけたような態度をとる。
「―何だと?」
「例え船が動くことができなくても、君たちの船を沈めることくらい、こっちは朝飯前ってことさ。」
ガーランドの態度からは余裕が感ぜられる。
―こいつ!!!
「ボクたちを脅すつもりなの!?」
俺の代わりにレティが気色ばむ。
「できれば俺たちもそんな真似はしたくないさ?だけどね、レティ。今は少しでも人手が欲しいのさ。」
そう言うと、ガーランドはラズリーの方を見て、
「そう言うわけで、手伝ってもらえるかな?お嬢さん。何なら、そこの使用人の子も使えそうだ。彼女も連れてきてもらって構わない。そこの男よりは随分と役に立つだろう。」
そう言うと、ガーランドはまたチラッと俺の方を見るのだった。




