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迅雷のイシュバーン ~転生した悪役貴族は覇道を目指す (悠々自適にスロ―ライフを送りたいだけなのだが!)~  作者: ねこまじん
4部 たゆたう波音 10章 波間にたゆとうもの

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202/207

16話

「お頭、あの船の様子はやっぱり変ですぜ?」


「何がだ?ロンド。あの船が良いと言い出したのは、お前だろう?」

お頭と呼ばれた男は、自らの鬱陶しそうにその長髪をかき分ける。今の部下の言葉に苛立ちを隠せないでいるようだ。


「―いやね。さっきからずっと見張っているんですが・・・。どうにも人の気配がしない。」

ロンドと呼ばれた男は、双眼鏡を覗きながら、声を抑えて言う。


「どういうことだ?」


「いやね、ガーランド様。確かに船に明かりは灯されている。灯されてはいるから中に人はいるはずなんです。そして、俺たちは既に海賊船の旗を掲げている。そんな船に追いかけられたら、普通甲板に出て、こっちの様子を伺う船員がいるはずなんです。あるいは、乗客でもいい。・・・ですがね、それがあの船にはない。」


「・・・」

ガーランドと呼ばれた男は、しばし何かを考えた後、


「あの船は救難信号を出しているんだろう?」

そんなことを言う。


「ええ、既にそれは確認済みです。」


「・・・」

ガーランドは、再び何かを考える。


ガーランドは若くしてその名を看板に掲げるガーランド海賊団の頭目である。最近特に頭角を現してきた海賊団として、一部(いちぶ)界隈でその名が通っていた。


ガーランド海賊団の特徴は、基本的に積み荷のある船であれば見境なく襲うことであり、たとえ相手が海賊だとしてもそれを襲うことすらあるのだ。


しかし、そのガーランドを以てしても、海賊旗を掲げた自分たちの船に対して、何の反応も示さず、ただ航行を続ける船というのはかなり奇妙に思えた。


「・・・やはりあの船がどこの国の所属かは分からないのか?」


ここで、ガーランドは相手の船が軍用艦である可能性を疑った。


しかし、相手が軍用艦であった場合、こちらの海賊船に何らかの敵対行為と判断できるものがあるはずだ。それがないということは、どういうことだろうか?



――誘われているのか?



確かにその可能性はある。しかし、相手が軍用艦である場合、自分たちの船が追うのを止めたとき、その軍用艦の目的は達成されない。それにいくら(おとり)であるとしても、万が一の場合に備え、そして海賊にとってより魅力的に映るように、大砲などを備えた商船に偽造するはずだ。


「ちょっと待ってくだせえ・・・。ええと、何か見えますね。でも何でしょうかね、何か盃に、蛇?でもそんな国ありましたっけ?」


「盃に、蛇?・・・ちょっと貸してみろ。」

確かにガーランドの知る限りでも、そのような旗を掲げる国は存在しない。そのはずである。


ロンドから双眼鏡を受け取り、ガーランドはそれを見た。かなり古びた旗に金色の糸で精巧に刺繍されて描かれた、聖杯に、蛇。



―バカな!?

そして、あることに気が付く。聖杯に蛇を掲げる国は確かにあったのだ。だが、その国は既に滅びて久しい。


「ロデリア聖王国・・・。」

かつて肥沃な国土を有し、決して好戦的ではなかったが、有数の軍事力を持つ国。その国の旗が、聖杯に蛇だったはずだ。


しかし、今から百年以上も昔、ゼヘラという反逆軍に王族を皆殺しにされ、政治体制が崩壊し、それをきっかけに、その後攻め入ってきたカンタリアに吸収され、今では旧ロデリア領という地名が残るのみである。旧ロデリア領は、今ではその土地も荒廃し、そのかつての栄華は見る影もない。


ロデリア聖王国の王族を皆殺しにしたゼヘラについては、分かっていないことが多く、本当にそのような集団がいたのかどうかも怪しい。しかし、それが何であれ、ロデリア聖王国の王族を皆殺しにした集団を示して、ゼヘラ、あるいは血のゼヘラと呼ぶようだった。


「ロデリア聖王国ってあのロデリア聖王国ですかい!?」

ロンドが仰天する。


「旗を見る限りな。・・・そう言えば、まだ幼かったロデリア最後の皇帝は、船を使い逃げようとしたが、その船ごと行方不明になったという話を聞く。」


「ゆ、ゆ、幽霊船ですかね・・・?」

ロンドの顔が青ざめていく。


「――落ち着け。まだそうと決まったわけではない。あの船は救難信号を出しているんだろう?・・・あれの目的が何なのか知る必要があると思わないか?」


「お頭、その目的を知ってどうするんです?」


「さあな?それを知ってから決めるさ。」

ガーランドは難しい顔をするのだった。

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