15話
―あの船とは何か?
普通に考えるのであれば、海賊船のことだろう。しかし、そんな当たり前のことをわざわざ言うだろうか?
「なあ、あの逃げてくる船も海賊船である場合、俺たちの船は困ったことにならないか?」
あれこれ考えて推測したことを皆に言ってみることにする。
「!!」
すると、ハーヴェルがハッとしたような顔をした。
しかし、レティは難しそうな顔をする。
「確かに、その可能性も否定できないけど・・・。」
「もちろん、本当にどこかの客船である可能性が高いだろう。しかし、相手が手の込んだ真似をする海賊だったときにはどうする?」
「そうだね・・・。でも追われている客船が沈没でもしないと、救難信号を出していたとしても、その乗客をわざわざこちらの船に乗せることはしないんじゃないかな?」
「・・・ソフィー。そのことを含めて、この船の対応を確認してもらえないかしら?」
ラズリーが少し考えてから、ソフィアに指示を出す。
「承知しました。」
すると、ソフィアは俺たちにペコリと頭を下げ、そして甲板から降りていく。
俺も一緒に付いて行こうかと思ったが、今回護衛で付いて来ているのは、俺とソフィアしかいないので、その場に留まることにする。
―確か、あの船に行っちゃだめだと、彼は言っていた
あの船に行くとはどういう意味だろうか?むろん、それが海賊船の場合、その言葉にはさほど注意する必要はない。
では、仮にあの船が海賊船だった場合は?
考えられるのは、あの船の連中が救助を求めると見せかけて、こちらの船に乗り込むことだろうが、それは、『あの船に行く』ということではないだろう。
『あの船に行く』というのは、どういった状況でそのような場面が生じるのか?
「・・・なあ、レティ。仮にあの船に俺たちが『行く』ことになるとすれば、それはどのような状況だ?」
「ボクたちが行く??」
レティが不思議そうに言う。
「ああ。俺たちが『行く』という場合だ。」
「―あまりそんな状況は考えられないんじゃないかな?あるとすれば、あの船が航行不能になって乗客が取り残されている場合とか?」
「でも、船は実際には動いているわよ?」
当然と言えば、当然であり、ラズリーがそのことを指摘する。
「うーん。逆に船が止まれない状況とか?でもそれなら、この船が救助に行くのも難しいかな。」
「――あるいはどこかの誰かのように、血気盛んな連中があえて船に乗り込むような場合か?」
その血気盛んなハーヴェルはアイリスとプリムの所へ戻ったようである。
「イシュバーン。さっきから様子が変なのだけれど、何かあったの?」
ラズリーが少し心配そうにこちらを気にする。
今、ここには、ラズリーとレティしかいない。であれば、彼女たちに相談してみるのも良いかもしれない。
「突拍子もない話かもしれないが、二人とも、幽霊って信じるか?」
「・・・本当に突拍子もない話ね。」
「キミは見たの?」
「ああ、実はな、以前、俺の家の前で見た不思議な男の子がいたんだ。」
「・・・家?」
ラズリーが腕組みをする。
「ああ、離れの家の前だ。玄関で男の子を見て、それが消えた。」
「確かに、それは幽霊かもしれないけど、それが今回の件とどう関係するの?」
レティが怪訝な表情をする。
「それがこの船にも現れたんだ。そして、そいつは俺に向かって何か、言いたいことがある様子だった。」
「「・・・・・・」」
二人とも、何か思うが事があるのか、黙り込んでしまう。
「もちろん、俺の与太話であると思ってもらっても構わない。俺も幽霊なんて信じちゃあいないさ。」
「でも実際に見たんだよね?あの船って、何なんだろう?」
レティは、おそらくは今も救難信号を発しながらこちらに近づいてくる船の方を見る。
「海賊船・・・ということはなさそうね。」
ラズリーも同じように船が近づいて来る方を見た。すっかり日も暮れて、周囲には静かに暗く広がる大海原がわずかな波音を立てるばかりだった。
「ああ。あの船がそもそも海賊船の場合も考慮しなければならないと思ったわけだが、しかし、それでも奇妙だと思うんだ。」




