14話
上に登ってみると、アウグスタを除くアルトリウスのメンバーは既に甲板に集まっているようだった。
「イシュバーン、こっちこっち!早く!」
レティが手をふる。
その他の者たちは皆、大海原のある一点を見つめている。
「―何か見えるのか?」
「ねえ、あれ見て?」
ラズリーが俺を見て、そして海の方を指さす。
俺はラズリーの指さす方を見ると、かなり距離はあるが、確かに船団がこちらに向かっているように見える。だが、単なる海賊船にしては少し様子がおかしい。
「・・・追われているのか?」
まず見えるのは、俺たちの乗る船と同じような船。そして、その後ろにいくつかの船団が見えた。それらの船はどうもこちらへ向かっているように見える。
「そうみたい。でもこのままじゃ、こちらの船にぶつかるわ。」
ラズリーが顔をしかめる。
「どうやら、この船に救難信号が送られてきたみたいなのです。」
ソフィアがそう言って、俺を見る。
海賊は海賊でも、襲われていたのはどうやら別の船のようだ。だが、このような場合、どうするのがよいのだろうか?
「それで、俺たちの船はどうするんだ?」
救難信号が送られているのだから本来は救助に当たるべきなのだろうが、しかし、俺たちの船には対海賊の装備はないはずである。
「ボクたちの乗る船は軍用船ではないから、素通りしても問題はないはずだけど・・・。」
「救助に向かうべきだ。」
少し離れた位置にプリムとアイリスと一緒にいたハーヴェルだったが、いつの間にか一人、わざわざこちらに来ていたようだ。
「――それを決めるのはボクたちじゃないよ?」
「であれば、船員に主張するべきだ。俺たちには戦う手段があると。」
ハーヴェルは、はやる気持ちを抑えきれないといったように見える。
「俺たちは海の上での戦い方に詳しくないはずだ。レティの言うように、ここはひとまず船員の判断に任せるべきだ。」
そもそも俺たちは海の上でどう振舞うべきか知らない。仮に魔法を使用する場合であったとしても、要救助船を巻き込んでしまっては意味がないはずである。
「―だが!!!」
「私たちは魔法学院の学生でも、今はこの船の乗客よ。一般的に、こういった場合、乗客は船員の指示に従うべきじゃないかしら?」
さすがは公爵令嬢、冷静な判断である。
「ソフィア、この船がどうするつもりか、船員から聞いているか?」
「いいえ。ですが、今この場所で停泊しているということは、もしかすると何らかの方法で救助にあたるつもりかもしれません。」
「そら見ろ。俺も助けに行くぞ!」
「――落ち着きなさい、ハーヴェル。勝手はダメよ。」
ラズリーがハーヴェルを諫めるようにして言った。
そのとき俺は、船員を探そうと辺りを見渡すと同時に、ふとあるものを見て、強烈な違和感に襲われた
―あのときの
年のころは、五歳、あるいは六歳程度。しかし、彼を見たのは二度目ではないだろうか?
すると、彼はこちらを見て、口を動かした。
「・・・・・・」
俺はそれを見て、固まってしまう。
「―どうしたの、イシュバーン?」
そんな様子の俺を見て心配したのだろう、ラズリーが少し不安そうに言った。
「・・・いや、問題ない。」
俺は一度ラズリーの方を見て、それからその男の子の方を見たが、
――そんな馬鹿な
もう一度見たときには、既にその男の子の姿はない。だが、見間違いではないはずだ!
「イシュバーン??」
すると、いつの間にか、レティやソフィアも心配そうにこちらを見ていた。
しかし、今見たことを伝えるべきだろうか?伝えるべきだったとして、どのように伝えるとよいのだろうか?いつぞやルディに言ったように、幽霊の話なぞ与太話として一蹴されるだろうか?
様々な考えが頭をよぎるが、適切な言葉が出てこない。
俺自身、にわかには信じがたいが、しかし、その男の子の口は確かに、次のように動いたのである。
『あの船に行っちゃダメだ!』




