20話
――そして、ついに模擬戦当日。この日がやってきた。
結局あれから俺の目指す完璧にまで技の精度を高めることはできなかった。
周りを見渡すと、普段大口を叩くイシュバーンと、学院でも指折りの実力者のハーヴェルとの模擬戦ということもあり、魔法練習場には人が大勢詰めかけていた。
この模擬戦では、魔法の使用の他に、模造剣の使用も許可されている。術者の中には、武具に魔法的な効果を付与するタイプの者も存在するからだ。
この模擬戦は、ある程度のダメージは結界が肩代わりしてくれる仕様になっているが、それを超えるダメージが入ると、実際に影響が出る。確かそんな仕様だったはずだ。
―気楽にやろう。
俺は一つ、深呼吸をする。
前を見ると、俺と同じく模造剣を持ったハーヴェル。俺の模造剣はブラフだが、ハーヴェルの模造剣は完全に武具としての役割を果たすだろう。
―魔法剣
それはハーヴェルの固有魔法であり、武具にハーヴェルの属性を重ねがけし、瞬間的に爆発させるというものである。
その威力は凄まじく、ゲームの世界では、イシュバーンはこれで文字通り一発退場だった。
魔法剣は攻撃範囲と威力に優れるが、射出する範囲は剣先の直線上が基本的である。つまり、横に逃げてさえすれば、当たることはない。実のところ、回避することそれ自体は簡単である。
だが、完璧に回避してしまえば、そこから更に戦闘が続行してしまう。今のところ、マナポーションを使わずに、俺の魔力で使用できるジンライは2回。
単純な殺し合いではいざ知らず、今回の模擬戦で戦闘を続行するのは明らかに俺の不利になってしまう。
つまり、当初の計画通り、魔法剣をジンライによってその効果範囲ギリギリで回避し、あたかも魔法剣を食らったかのようにふるまう必要がある。
ちなみに、ダメージの有無で分かるのではないかという懸念があるが、それは威力が結界の許容範囲であったということにできるだろうと思ってはいる。
目を前に向けると、模造剣を持ったハーヴェルがいる。
その佇まいからは、自信と余裕が見て取れる。
当然だろう。
確かに、ハーヴェルはイシュバーンをこの時点でそれなりには強敵だと思っている。しかし、ラズリーやアウグスタならいざ知らず、さすがにイシュバーン相手に後れを取るなどということは、想定すらしていないことだった。
そして、それは周りの観客も同じこと。
ゲームのイベントでは、この試合にこっそり賭けが行われるが、ハーヴェルのオッズが1.0であり、賭けが成立しなかったのだ。
「イシュバーン、覚悟はいいか?」
ハーヴェルが剣を構える。
「―もちろん。いつでもかかってこい。」
―さあ、いよいよだ。
「はじめ!」
審判の声掛けとともに、幕が開けた。




