13話
と、そのとき急に辺りが騒めき出した。
乗船している客は当然ながら、俺たちだけではない。通常の旅行客や仕事の関係で乗船している者など、様々な身分・職業の者が乗り合わせている。
「―何だか周りが穏やかじゃないね?」
レティが落ち着きのない周りの様子に何かを感じたようだ。
「何かあったのでしょうか?」
今まで静かだったソフィアも立ち会がって周囲の様子を気にする。
「・・・さっさと食うか。」
何があったか分からないが、俺は食事を平らげることに意識を集中する。肝心な時に腹が減ってはパワーが出ないのでは困るからな。
「―おい、イシュバーン。少しは周りを気にしてはどうなんだ。」
そうは言いながらも、ハーヴェルも物凄い勢いで食事を腹の中に入れていく。
ふとアウグスタを見ると、既にその皿は空だった。
―やるな、アウグスタのやつ
「ソフィー、何があったか探ってくれる?」
そう言って、ラズリーは食事を中断する。
「かしこまりました。」
そう言ってソフィアは席を立ち、店員の方へ向かって行った。
「・・・どうしたのかな?」
プリムが不安そうに言う。
「きっと大丈夫よ・・・。」
アイリスはそう言いながらも、やはり騒がしい周囲の様子が気になるようだ。
少しして、ソフィアが戻って来た。
「どうやら、どこのものとも知れない船団がこちらに向かっているようです。」
「それってつまり―」
「ええ、お嬢様。海賊かもしれません。」
――海賊
海を往来する船は古来より、貴重な積み荷を載せて来た。それは、貴重な物品である場合もあれば、高貴な身分の人物である場合もある。そんな積み荷を載せた船は、多くの人にとって宝の山であった。そして、そんな宝の山を載せた船は大海原では孤独な船旅になることもしばしばあった。であれば、そんな交易船を狙う輩も当然存在するだろう。
どうやら、この世界でもそういったことがあるらしい。
「―そいつは、随分と穏やかじゃあないな?」
素早く食事を空にし、俺はナプキンで自分の口を拭きながら言う。
「当然撃退する準備はできているんだろうな?」
同じようにハーヴェルも皿を空にしている。
「ハーヴェル、この船は民間船よ?きっとほとんどそういった設備は備わっていないはず。」
アイリスがそう言いながら、ハーヴェルの口をナプキンで拭く。
俺はその様子を横目で見ながら、
「―レティ、この船には避難用のボートなどはないのか?」
「さっき少し確認したんだけど、きっと備え付けは数隻しかないと思う。」
この船に乗ったときに、レティは何かを確認していたようだが、どうやらこの船の緊急時の備えについて確認していたらしい。
「なら俺たちが撃退するしかないな。」
ハーヴェルがそんなことを言い出した。
「ちょっと、ハーヴェル!危険よ!」
プリムが大きな声を出した。
「——心配は無用だ。」
ハーヴェルがそう言って静かに席を立つ。
「―ちょっと!どこに行くの!?」
「上に出る。お前も付いて来るか、プリム。」
そう言ってすたすたと歩いて行くハーヴェル。
「「私も行くわ!」」
プリムとアイリスもそれぞれ席を立ち、ハーヴェルを追いかけて行ってしまった。
「・・・水でも飲むか。」
見れば、アウグスタの奴もいつの間にか席にいない。テーブルに残っているのは、俺とラズリーとソフィアとレティだけである。
「イシュバーン様、さすがにそれは悠長というものでは?」
ソフィアがお小言を言ってくる。
「さすがに俺はまだ見えぬ距離の相手に戦う術を持たないんでな。」
俺の有する攻撃手段で最も射程が長いものは雷切である。しかし、俺の雷切はあくまで目視による投擲というマニュアル操作によるもので、長距離射程や自動追尾といった高級な機能はない。そのため、魔眼を使っても認識できないような距離に敵がいる場合、それに対して攻撃することはできない。
仮に射程距離内に近づいていれば、ここの窓から海賊船の明かりくらいは見えてもいいはずだが、今はそれが見えていない。おそらくまだその距離は遠いのだろう。
「それって、もっと近づいたら戦う術があるってコト?」
何やら意味ありげにレティが聞いてくる。
「・・・まあ、ないことはない。」
「お嬢様。」
そう言ってソフィアがラズリーの顔を見る。
「ええ、そうね。」
ラズリーは頷き、
「私たちも甲板に上がるわ。」
そう言って二人とも立ち上がってさっさと食堂を出て行ってしまった。
「―ボクもみんなの様子を見に行くよ!」
すると、レティも立ち上がって食堂を出て行く。
「・・・やれやれ、忙しない事だ。」
俺は冷たい水をぐいっと一気に飲み干すことにする。




