12話
「――お頭、あの船なんかどうです?」
双眼鏡を覗く髭面の男が声をかける。
「どれ?見せてみろ。」
お頭と呼ばれた若い男は、髭面の男から双眼鏡を奪い取るようにし、それを覗き込む。
「―ああ、いかにもって感じだな?」
男が見たのは、一隻の大型船である。しかし、見た感じ装備はしっかりしていると感じられるものの、目立った砲台などはなく、客船であることが分かる。
だが、油断は禁物である。この世界には、たとえ砲台がなくとも、魔法という存在があり、下手をすれば一発の魔法が船すら沈没させる場合があるのである。
「魔法使いが乗っている可能性は?」
男は双眼鏡を髭面の男に返し、念のため聞く。
「そりゃもちろんありますよ。ですが、虎穴に入らずんば、でしょう?」
「当然だ。旗はどこの国のものだ?」
「旗は—、何ですかね、ここからは良く見えない・・・。ですが、きっといい所の客船でしょうぜ。」
髭面の男が双眼鏡を覗き込みながら言う。
「よし。やるぞ。夜に紛れて襲う。」
男は低い声で、しかし確かな声でそう言う。
「アイサー!」
そう言うと、髭面の男は甲板のドラをけたたましく叩く!
ジャンジャンジャン!!!
すると、下からわらわらと男たちが甲板へと集まって来た。
「どうしたんですかい!?」
下から上がって来た男の一人が言う。
「―ああ。いいカモが見つかったんだ。」
お頭と呼ばれた男はニヤリと笑いながら言った。
「―幽霊船?」
食事時、何やら不穏なことをレティが言い出したので聞くことにする。
「そ!!出るんだってえ?」
手をわちゃわちゃさせながらレティが言う。
「レティ、何だその手は。」
手つきが何やらいやらしい。
「え?何って、お化けだよ?」
何でもないというようにレティが答える。
「レティ、それじゃまるでいやらしいお化けじゃない。」
ラズリーが呆れたように言う。
「そんなものがいれば是非ともお目にかかりたいものだ。」
目を細めて言うのはハーヴェルである。
「やめてよね、幽霊船だなんて。」
文句を言うのはプリムである。
アウグスタはこちらに目もくれず黙々と飯を食っているし、ソフィアは静かに成り行きを見守っている。
今、俺たちは、アルトリウスの皆で集まって夕食を食べているところだった。そして、アイリスの平和な旅ね、という何気ない一言にレティが反応して、幽霊船などと言い出したのだ。
「馬鹿馬鹿しいわ、レティ。本当に幽霊船がいるのなら、こんな航路を通過しないはずよ?」
アイリスがレティを咎めるように言う。
「ボクもそう思うんだけど・・・。見たって言う人がいるらしいんだよねえ。」
レティは特に悪びれもせずそんな風に言う。
「大体、幽霊船なんかに出会いでもしたら、私たちじゃどうしようもないわ?」
「そこは・・・。ラズリーが何とかしてくれるって!」
「―私に何をしろと言うのよ?」
「固定砲台でドカーンって!!!」
手を大きく広げ、どかーんという仕草をするレティ。
「・・・」
ラズリーがちらっと俺の方を見る。が、生憎、俺の魔法はそんな性質のものではない。
「まったく、その男に何を期待すると言うんだ?」
ハーヴェルが厭味ったらしいことを言う。ラズリーが俺の方を見たことに気が付いたのだろう。
「―そんなの、やってみなければ分からないじゃない??」
珍しく喧嘩腰のラズリーである。
「だとよ?」
ニヤニヤしながらこちらを見るハーヴェル。
「―フン。幽霊船など、俺のサンダーボルトで海の藻屑にしてくれよう。」
俺は拳を固く握りしめて宣言する。
きっと幽霊船がボアくらいの強度なら可能かもしれない。
「——呆れた。あなた、本当にできると思ってるの?」
馬鹿にするようにして俺に言うのはアイリスである。
「無論だ。」
まったくそんなことは思わないが、あからさまにみくびられるのも癪に障る。
「ねえ、ラズリー様。イシュバーンを護衛にするのはどうかと思うよ?」
プリムがストレートに酷い事を言うが、
「えっとね・・・?。」
困ったような顔をするラズリーだった。




