9話
「―これがパラメウラか。」
俺はマーマンの集落にあるとある建物まで来ていた。その建物は公民館のような役割を果たしているようだが、その中には、ゴンズが、これがパラメウラであると主張する大きなな魚の硬骨が展示されていた。
「そうだべ。おっかねえダロ?」
その骨は魚の頭部を構成する骨であるようだ。俺はその魚によく似た魚を見たことがあった。ただし、実物ではなく、図鑑の中である。
―板皮類
確か、そんな種類の魚にそっくりだった。古生代に水中を制覇していたという、まるで外骨格を有するような硬い外皮を持つグループの魚である。代表例はダンクルオステウスという魚であるが、それによく似ていた。
「・・・こんなのに嚙まれたら、たまったものではないな。」
頭部を構成する骨から連続で連なる大顎が特徴的である。
「んだ。オラたちは水中で泳ぐのが得意だべが、コイツだけは要注意なンだべ。スピードとパワーはマーマンを上回るダ。」
ゴンズの言うことはもっともであると思った。
「もし魚の狩をする間、こいつに遭遇したらどうやって逃げるんだ?」
「とにかく距離をとるしかないダ。こいつがスピードとパワーを発揮するのは短時間に限られるンダ。周りをよーく見て、コレを見つけ次第、さっさと浅い場所に離脱するダ。」
「この淵をどれだけ深く潜ったことがあるんだ?」
「オラもそこまで潜ることはねえダ。さっきくらい? それよりチョット深ェくらいまでダベ。深く潜れば潜るホド、周りが見えにくいし、コイツと遭遇するおそれが高まるンダ。」
そう言うと、ゴンズはパラメウラの骨格をべしべしっと叩く。
「ゴンズでも、この淵もどれだけの深さがあるのかは分からないんだな。」
「そうダベ。ンだが、昔深く潜ったっちゅうマーマンの話ではナ、深く潜るとダナ、その先にはこのパラメウラがイッパイいるという話ダベ。一匹でもおっかねぇのに、コンナノがうようよいるような場所にゃオラは近づきたくないナア。」
縦に深く切り立った淵を更に深く進むことは、マーマンでも躊躇するらしい。
「さって、こいつを刺身にしなきゃあなんネエナ? ちょっと待つダ。」
そう言うと、ゴンズはビパメリを持ってその家に備え付けられた台所に向かう。そこで魚を捌くのだろう。
「ビパメリを捕えるには潜るしかないのか?」
「いんや?大抵は釣りダナ。ンだが、こいつは深ェ場所にしかいないんだもンで、そんな簡単には釣れないンだべサ。さっきみたいに手掴みにすることのが確かだべナ?」
ゴンズが包丁で小気味よく捌く音が聞こえてくる。
「―ほれ、できたぞ?」
見ると、綺麗に三枚におろされ、うち一枚を刺身にしたようだった。
「これは―、美味そうだ・・・!」
ビパメリは白身魚であるようで、その刺身はまるで鯛のようにつやつや白く光っている。
「残りは持って帰るダ? ンでも、ビパメリは新鮮ナ間デしか刺身にできないダ。焼くか?」
「焼いて持って帰るよ。そこの竈を借りることはできるか?」
「アア、もちろンだべ。」
そうして、俺とゴンズは刺身にされたビパメリを食し、その後、いい具合に焼けた残りのビパメリと、カニを三匹を持って帰ることにした。焼いたビパメリはゴンズから保管用の包みを貰ったのでそれに入れ、カニは持ってきた保冷剤と容器に入れ、ズタ袋に放り込む。
「―それじゃあナ!マタいつでも来てくれヨ!!ボアの肉ヲ持って来てくれるンナラ、大歓迎だべ!!」
「ああ!魚を準備して待っていてくれ!!」
そうして、俺はマーマンの集落を後にすることにする。離れに着くころには、すっかり夕暮れになっていた。




