8話
「それじゃ、行ぐゾ??」
「―了解。」
俺たちは再び水の中に潜っていく。淵の中は途中に見た浅瀬とは見間違うほどに深い。補助の水着がなければ、とてもではないが泳ぐことができる深さではなかった。
ゴンズを見ると、魚の群れの上に止まる。さすがに直立不動というわけではないが、魔法でも使っているのか、無駄な動きはほとんどなく、静かに下の方の魚の群れを見下ろしている。
反対に俺はというと、立ち泳ぎと同じ動きを水中ですることで、何とか場所を保っている具合である。
再びサムズアップをしてくるゴンズ。おそらくこれから更に潜行し、下の魚を獲るつもりだろう。
俺がサムズアップを返すと、
ゴンズはぐっと足を曲げ、水中を大きく蹴って、下に向けて一気に急加速して潜って行った!!
俺も、その後を追おうとするが、ゴンズは魚を追いかけてグルグルと円を動くようにして群れの中に入って行くので、とてもではないが、追いつけない。
―うおっと!
補助用の魔道具があるとはいえ、水中でバランスを保つのはやはり少し難しい。
俺が何とかバランスをとろうとしているうちに、ゴンズはあっという間に1メートルは軽く超える魚を手づかみで捕らえて来た。
そして、くいくいと上を指さす。浮上するということだろう。それに対して俺が頷くと、上へ浮上していく。
浮上する途中、下の魚を見ると、何か巨大な影がぬっと現れ、ゆっくりと先ほどの魚の群れに迫るのが見えた。
―何だアレ??
「―ぷはっ!!」
さすがに水中に長くいたので、身体が酸素を欲しているようだ。俺は大きく深呼吸をして息を整える。
ゴンズは魚を持って先に浮上し、俺が浮上するのを待っていたようだった。
「どうでえ!見事な魚ダロオ!?」
そう言うと、ぴちぴちとまだ元気に生きている魚をこちらに見せる。その形はスズキの大きくしたようなものに見えるが、
「ああ。どういう魚なんだ?」
「こいつは、ビパメリというダ。ここらで獲れる魚でもかなり味がいいだべさ!」
その魚の名前はやはり聞いたことのない魚だった。
「魔物なのか?」
「いんや?こいつは普通の魚だべさ。オメエさん、刺身はイケるか?」
「ああ。刺身は俺の好物だな。」
といっても、それは元の世界の話。通常、俺の知る限りこの世界では、魚は大体、焼くか、ムニエルにするかのどちらかだった。きっと場所が変わると、その食べ方も変わるのだろう。
「刺身は獲れたてが一番だべ!ほいじゃ、戻るべナ。」
そう言うと、ゴンゾはすいすいと進んでいく。
水面から下を見ると、魚の群れがいた場所は深くてここからでは見渡すことができない。魔眼を使うと、下の方に何か巨大な魚の印影が見えた。
―あんなものがいるとは
見る限り、サメの形ではなく、通常の硬骨魚を大きくしたような形である。あれは何だろうか?
「なあゴンズ。下にでっかい魚の影が見えたんだが、ありゃ何だ?」
「でっけえ魚?ああ、多分それはパラメウラだべナ。そっかあ、パラメウラが居たのカア。もうチョット遅れたらやっかいだったべ。」
「人食い魚か?」
「ンダべ。ありゃあ、この辺で最も警戒しなきゃあならんオッカナイ魔物さ。後でパラメウラの骨を見せるべ。」
その割にゆっくりと泳ぐゴンゾ。
「―もう少し速く泳いでいった方がいいんじゃあないのか?」
さすがに水の中で泳いでいると、反応が遅れる恐れがある。
「いんや。パラメウラは深い場所にしか現れねえンダ。なモンデ、こうやって水面を泳ぐ分には問題ねえダ。危ないのは狩をするときだべナ。」
「他にこの辺りで危険な魔物はいないのか?」
「いないことはないだべが、パラメウラ以外はオラでも楽に対処できるべナ。」
改めて魔眼を使い周囲を見ると、微妙に魔力を持つ印影が水の中にちらほら見える。確かにそのどれもが小さいサイズだった。




