4話
翌日も休日だったので、俺は朝の時間帯にボアの肉を取って来ることにした。
もちろん、その目的はあのマーマンにボアの肉と引き換えに魚を得るためである。
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。唸れ!サンダーボルト!」
悲しいかな、魔法学院に入学してこのかた、未だ俺はフル詠唱をしなければならない。幾度か合同ダンジョン探索で他の学生が魔法を使用しているところを見たが、完全ではないものの、ある程度の詠唱省略をできる学生もちらほら見たのだ。
バチバチ!
しかも、サンダーボルトはいつも一定の威力だ。魔力の込め方を変えることで、魔法の威力を増やしたり、減らしたりすることはできるはずだが、俺の使うサンダーボルトの威力は一定である。具体的には、ボアをいい具合にこんがりとさせる程度の威力である。
「・・・それがいい所でもあるのだが。」
とりあえず、魔眼を使用してボアを見つけたら、何も考えずにとりあえずサンダーボルトを詠唱しておけば、ボアの肉が獲れるのである。
ちなみに、魔力変化による電撃を使用すると、ボアの肉は真っ黒になり、とても美味い肉とは言い難い状態になってしまう。
俺のサンダーボルトは、まさにボアを獲るために特化しているといっていい。
―そういえば、あの戦国大名との戦闘のとき、魔力の枯渇が早かったな?
魔力変化を使用して電撃を飛ばすと、魔力が回復する感覚があった。特に最近、魔力変化による電撃の威力を増大させることができるようになってから、その感覚は顕著である。
本来であれば、あの戦闘の際にも迅雷を何度か使用できたはず。しかし、あの戦闘に限っては魔力の枯渇が著しかった。
「―どういうことだ?」
俺はボアの血抜きをしながら、魔力とその回復について考えることにする。
どうやら、魔力変化を使用して電撃を飛ばすと無条件で魔力が回復することはないらしい。しかし、幾度か限界を超えて魔力行使ができたということもまた事実である。
―魔力が回復する条件とは?
考えるべきは、これまでの戦闘に存在して、あの戦闘には存在しなかったものだろう。とはいえ、考える限り、俺自身はこれまでと条件的に異なるところは見当たらない。とすれば、俺ではなく、相手側の問題ということか?
「―っと。いい具合だな。」
考え事をしていると、いつの間にかボアの血抜きを終えていたようだ。ボアの肉を見るのが久しぶりの気がして、とても美味そうに見える。
「切り分けて持っていくか。」
ほとんどジャイアントスネイルしか出ないとはいえ、ダンジョン内を突っ切るのである。丸々一匹を持っていくよりは、切り分けた肉を持っていく方がよいだろう。
―それにしても
こんがりいい具合に表面が焼けたボアを見ていると、少し腹が減ってきた。実際にどのような栄養が含まれているのかは分からないが、きっと肉の上質なタンパク質以外にも、ミネラルやビタミンなどの栄養も豊富に含まれているだろう。もっとも、こちらの世界と元々の世界の栄養素が同じかどうかは分からないが。
っと、そこまで考えて。
―栄養?
何か引っかかるところがあった。
これまでの相手はこちらの世界のものであるが、あの武者は元々俺がいた世界のものである。そしてこちらの世界に存在し、元いた世界に存在しないものは何か?
「―魔力か。」
それは魔力である。確かに俺の魔力による電撃は弾かれはしたが、あれは鎧の何らかの特殊な効果によるものかもしれない。
あくまで一つの仮説であるが、あの戦闘で俺の魔力が回復しなかった原因は、武者自身に魔力は存在せず、そのためいくら電撃を打ち込んだところで、俺の魔力が回復することはなかったからである。そして、これまで魔力変化を使用することによる電撃を当てると魔力が回復していたことから、俺の魔力が回復する条件は—
——敵に魔力が存在すること
魔力変化を用いて電撃を打ち込むと自然と魔力が回復するのではい。俺の魔力が回復していたのは、敵に魔力が存在しているから。敵の魔力を利用して自分自身の魔力が回復するのは、ある意味でこの世界の栄養ともいえる魔力を敵から得ていたため。
「ああ、俺は自分の気が付かないうちに、敵から魔力を奪っていたのか。」




