2話
「ん~!これ美味しいわね!」
ラズリーが舌鼓を打つ。
「どれどれ・・・。」
それは、かつて食べ慣れたもっちりとした米ではなく、少しパサパサしているものの、いつの日か食べた炊き込み飯と同じような味がした。もしかすると醤油が使われているのだろうか?
「―なんだか不思議な味がしますね?」
ソフィアも炊き込みご飯をじっくりと味わう。
―こちらの世界で醤油を使用した覚えはないな?
だが、醤油は言うまでもなく、俺にとっては馴染み深いものである。
「こいつは醤油が使われているのかもな?」
「ショーユ、ですか?」
「ああ。醤油というソースがあるんだが、それかもしれない。」
「ショーユ?どんなソースかしら・・・。ね、イシュバーン。今度それ、ウチまで届けてもらえないかしら?」
「いや、作り方までは分からないが・・・。いや、待てよ?もしかすると仕入れることができるかもしれない。」
そう、俺は醤油を作ることはできないが、醤油を取り扱っている可能性のある店であれば知っている。
「材料は、ライスと、鳥肉、そしていくつかの香草とそのショーユでしょうか・・・?」
ソフィアが味わいながら、さっとメモ用紙に何かを書きとっていく。レシピをメモしているのだろう。
「ソフィアは料理は得意なのか?」
「私は作ることは専門ではありませんが・・・。ですが、どういった具材が使われているのか、程度であれば素人ながら推測することはできます。」
「もしかすると、公爵家の専門の料理人が作るのだから、これよりも美味いものができるんじゃあないか?」
「そうでもないわよ?いつも私が食べているものより、こういった街の店の方が美味しいことなんて、よくあることだもの。」
ふとラズリーの頬に付いた米粒を見つけた。
「何よ?何か付いてる?」
ちょっとラズリーがむっとして言う。
「―ああ。」
そう言うと、俺はラズリーの頬から米粒を取ってやる。
ふきふき
「・・・ん。」
ラズリーはくすぐったそうに言う。
―少しお子様っぽいな?
「あ!なんか変なこと考えているでしょ!?」
「いや、そんなことないって!なあ、ソフィア?」
「お嬢様。きっとイシュバーン様はお嬢様のことをお子様だとお考えですよ?」
あえて真顔でそんなことを言うソフィア。
「―あ!ひどいんだ!!」
ラズリーがおこである。
俺とソフィアは苦笑いをするしかなかった。
「―そういえば、ショートステイの話、聞いてる?」
デザートのアイスクリームを食べながら、ラズリーが俺に言う。
―ラズリーって甘党だよな?
食後は必ずデザートを食べている印象がある。
「ショートステイ??」
「ほら、うちにレティが留学生として来ているじゃない?今度、レティが一旦帰るとき、アルトリウスの学生もどうか、って。」
―そんなイベントは聞いたことがないな?
どうやら、俺の知らない間に新しいイベントが出現したようだった。
「ということは、オルビス都市国家群のセルペタに行くことになるのか?」
「そうそう。コルティス学園というらしいの。確か、騎士学校だったかしら?魔法も教えているみたいなんだけどね?」
「ラズリーが行くことになったのか?」
「ええ。ある程度の身分が必要なんじゃないかって話らしいのだけれど、さすがにセフィリアは王族だから彼女が行くのは難しいということみたいなの。それで私のところにそんな話が来たのよ。」
「あんなことがあったのに?」
俺には誰がこの話をラズリーに持ってきたのか凡そ推測することができた。
「―ええ。えっと、それでね?」
そう言うと、ラズリーはこちらを意味ありげな様子で見る。
「ああ、それは勿論構わないが、その場合、俺はどういう扱いになるんだ?」
「えっとね、友人一人と、付き添い一人を連れて行っていいみたいなの。」
「―なるほど。俺は友人枠ということか。」
「そうね。このメンバーで行くつもりよ?」
「ソフィアはこの話を聞いていたのか?」
「はい。お嬢様からは少し前に聞いていました。」
どうやらソフィアが真っ先にデザートを食べ終えたようだった。




