1話
「なあ、ルディ。お前、エミリーとは一緒にダンジョン探索をしていないのか?」
俺はテープ付近で野次馬をしていたルディに声をかける。
「んあ?そうだな。それぞれ護衛が付いているからな。大所帯になっちまうだろ?」
―呑気なものだ
「そういえば、エミリーは?俺は見ていないが。」
「エミリーなら、向こうにいるぞ?」
俺はルディが指さす方向を見ると、ちょうどエミリーが数人の護衛と一緒にいるのが見えた。
「・・・結局何もなかったのよね?」
ラズリーが俺に確認する。
「ああ。テープの奥には何もなかった。」
「じゃあ、これは一体何だったのかしら?」
ラズリーはテープに触れながら言う。
「さあな?誰かの悪戯かもしれないな。」
「——そろそろ時間のようです。」
ソフィアが懐中時計を見て、俺たちに声をかける。
そうして、皆ダンジョンの入り口に戻ることになった。
結局、エミリーがゴブリンソルジャーに攫われるイベントは起きていない。そのため、エミリーがハーヴェルに惚れるということも起きてはいない。どうやらエミリーとハーヴェルにそもそも接点が生じなかったようだ。
だが、ゴブリンソルジャーそのものは現れていたので、放置していればエミリーに関するイベントは起きていたのだろう。
ではあの戦国大名はなんだったのかといえば、それは正直、分からない。
ただ、俺が従前のイベントに介入したことで、新しく生じたイベントであると考えるのがもっともであると思う。
「それでは皆さん、お疲れ様です。ダンジョンはいかがでしたか?魔法学院アルトリウスの学生の皆さんは、今回の探索のレポートを書くまで、単位の認定が認められませんので、書き忘れることのないように、ご注意ください。」
引率の教員が言う。
ああ、という声が聞こえてくる。特に何事もなかったとはいえ、皆それなりに疲れているようだった。
「また、中等部の皆さん、今回のダンジョン探索はいかがでしたか?おそらくは刺激的な経験になったのではないでしょうか?来年は是非アルトリウスの学生として参加してください。それでは皆さん、本日はお疲れ様でした。」
その後、俺たちは宿に戻った。学生によってはそのまま別の宿を予約している者や、あるいは異なる店に外食に行く者もいるようだ。
「イシュバーン、お疲れ様。明日の朝、馬車を予約してあるわ。夜ご飯はどこか他の店に食べに行く?」
宿の前で、ラズリーが俺に聞いてくる。
「そうだな。ラズリーやソフィアが疲れていなければ、外に食べに行くのはどうだ?」
「いいわね。ソフィーはどう?」
「私も賛成です。確か、この街の特産物は香草をたっぷり使用した鶏とキノコの炊き込みご飯だったはずです。」
「さすがソフィーね。それにしましょ!」
そうして俺たちはアレクの街にある繁華街のとある食堂に入ることにした。
「いらっしゃいませ。三名様ですね?」
「ええ。できればテーブル席が良いのだけれど。」
ラズリーが言う。
「畏まりました。それではこちらへどうぞ。」
俺たちはテーブル席へ案内される。
その店はカウンターといくつかのテーブル席、そして二階の大広間があるようだった。どうやら今は二階の大広間は誰も使っていないらしい。
席に着くや否や、
「―これにしましょ?」
そう言って、ラズリーがメニューの『アレクの街名物!満腹キノコの炊き込みご飯』を指で示して言う。
「そうだな。せっかくの街の名物なんだ。それにしよう。」
「ソフィーはどう?」
「私もそれにします。」
「決まりね。すみませーん。」
そう言うと、ラズリーが手を挙げ、
「この炊き込みご飯を三つ、お願いします。」




