エピローグ
「——あっちで妙なテープが見つかったらしいわ。」
様子を見に行っていたラズリーがこちらに戻って来る。
俺たちは今、二日目のダンジョン探索中である。
そして、何かダンジョン内が少し騒がしくなったので、ラズリーが自身の近しい友人、要するにラズリーとセフィリアの取り巻きである、に何があったのかを聞き、こちらに戻って来たのだった。
「私たちも少し様子を見に行ってみない?」
「・・・そのテープには異常はなかったのか?」
「単なる黒と黄色の縞模様のテープみたいだけど・・・。」
どうやらそれなりの数の学院生がその場所に集まっているようだった。
そこにいるかもしれないモノのことを考えると、とても様子を見たいとは思わないが・・・。
しかし、あれからアレが一体どこへ行ったのか知る必要があるだろう。
「―分かった。行ってみよう。」
俺はラズリーに返事をする。
その場所に到着すると、俺の設置した黒と黄色の縞模様のテープと、立ち入り禁止と書かれている看板がごちゃごちゃになって崩れているのが見えた。
——これをやったのは!?
だが、昨日ここを通り過ぎたとき、これらを薙ぎ倒した記憶があり、その際に振り返ったときに見た状況とほとんど同じ状態であった。
そして、もしこのテープの状態が昨日と変わっていないのであれば・・・。
——まだあの場所にいるのか?
「誰かこの先に進んだやつはいるか?」
俺は集まっている野次馬の一人に訊ねる。
そいつは隣にいる別の学院生と顔を見合わせ、
「いや、まだ誰もこの先には進んでいないらしい。」
そんな返事がきた。
―どうする?確認するべきか?
俺は自分自身の設置した立ち入り禁止の看板から先に進むことをためらっていた。
そこにハーヴェルと、プリムとアイリスが姿を見せた。
「——先に行って様子を確認するべきだ。昨日はこんなものはなかった。」
ハーヴェルは言う。
―こいつを行かせるべきではないな
下手をすれば、戦闘力のある者とみなされて、物語の主人公が、あんな訳の分からないモノに一刀両断されるおそれがある。それだけは避けねばならない。
「いや、この先には進むべきではない。」
俺はハーヴェルに言う。
「なんだ、イシュバーン。いたのか。」
「なんだとは、なんだ。ハーヴェル。この看板を誰が設置したのか分からんが、この道をこれ以上先に進むべきではない。」
「こんなもの、昨日見た時にはなかった。おそらく誰かがふざけて設置しただけだろう。」
―そうであればどれだけ良かっただろうか
だが、実際には、この先は幸か不幸か、本当に立ち入り禁止のエリアと化しているおそれがある。
「―ふん、小心者め。俺は行くぞ。」
そう言うと、ハーヴェルは薙ぎ倒されたテープ類を気にせず、そのまま先に駆けていく。
「待てよ、ハーヴェル!」
俺は慌ててハーヴェルの跡を追う。
「「ちょっとハーヴェル!」」
「待ちなさい、イシュバーン!」「イシュバーン様!」
後ろから呼ぶ声が聞こえるが、今はハーヴェルを追う方が優先度が高い!
そして、俺は魔力集中を用いて、ハーヴェルを簡単に抜き去り
「イシュバーン!?」
俺はいとも簡単にハーヴェルの前に回り込む。
「ハーヴェル。この先は危険かもしれないんだ。引き返そう。」
「―黙れ、イシュバーン。お前の指図は受けない。」
こいつは本当、何でこんな妙なところで強情なんだ?
―やるか?どうする??
力ずくでハーヴェルを抑えるかどうか、少し迷っている間に、後ろから息を切らしながらラズリーとソフィア、それにプリムとアイリスの姿が見えた。
―しまった、もう少し決断を早くするべきだったか?
「―ちょっと!はあ、はあ・・・。急に走って行かないでよ!」
文句を言うラズリー。
「そこをどけ!イシュバーン。こんなの悪戯に決まっている!」
―やむをえないか
「であれば、先に行くのは俺とお前だけだ。ラズリー、ソフィア。それにプリム、アイリス。すまないが、あのテープのあった位置まで戻ってくれないか?」
そうすれば、何かあっても被害を受けるのは俺とハーヴェルに限定されるだろう。
「・・・いいだろう。プリム、アイリス。あのテープの位置まで戻ってくれ。」
「・・・うん。気を付けてね?」「分かりました。」
「イシュバーンなんかに負けないで!」「・・・はい。」
それぞれ返事をして、女性陣は後ろに戻って行く。
そして、俺たちはおそるおそる、先に進むと——
果たしてそこには何もなかった。昨日見た転移魔法陣も、あの大名も。
「ほら見ろ、イシュバーン。俺の言った通りだ。」
俺が目にしたものといえば、そうやって勝ち誇るハーヴェルだけだった。
迅雷のイシュバーン、第3部 見えるもの、見えざるもの 編 について完結です!
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