14話
「今回のダンジョン探索は今日と明日の二日に分けて行う。学院生は順番にダンジョン内に入るように。今日は第二階層へは進むな。第二階層への探索は明日の予定とする。」
魔法学院生はそれぞれ順番に護衛とともにダンジョン内に入っていく。
「―げっ。あのときの。」
ラズリーを見てそんな声を上げたのはローズである。横にはイシュトと、いつか見たイシュトの剣の師という女性、とおそらくはヘイム家から派遣されてきたであろう護衛が数人付いている。
「あら、貴女、どこかで見た顔ね?」
一方、ラズリーは涼し気な顔である。特に何かを気にする様子はない。
「・・・兄さん、まさかとは思うけど、その子の護衛なの?」
イシュトが妙な顔をする。その子とはラズリーのことだろう。俺とソフィアは魔法学院の制服を着ていない。俺はいつもの上下、ソフィアはいつものメイド服ではなく、動きやすい恰好をしていた。
「そうだ。何か文句でもあるのか?」
「・・・ぷっ。あはは!君、悪いことは言わない。護衛を変えた方がいいんじゃない?」
「——問題ないわ。私が、この人を護衛に選んだのよ。」
ラズリーはイシュトを少し睨む。
―おお、ラズリー、ちょっと格好いいぞ
「イシュト、行きましょう。その女もきっとあなたのお兄様と同類なのよ。」
そう言うと、ローズはイシュトの手を引いてさっさとダンジョンの中へ向かおうとする。
「―ちょっと!それは聞き捨てならないわ!!」
なぜかおこであるラズリー。
―ん?
「はいはい。せいぜい楽しみなさい。」
ローズはこちらを少し振り返って捨て台詞を言い、イシュトとその護衛を連れてダンジョンの中へ消えていった。
「・・・なあ、ラズリー。」
「なあに?」
むっとした顔を緩めて少し微笑んで言うラズリー。
「・・・俺と同類と言われたら傷ついちゃうのか?」
俺もほんのちょっぴり傷ついちゃうぜ。
「あ!・・・ごめんなさい。」
ラズリーは少し目を伏せる。
「イシュバーン様と同じと言われて喜ぶ人は皆無だと思いますよ。」
ソフィアが無表情でこちらを見る。
「なんだとぉ?」
――喧嘩売ってんのか!?
「お嬢様、そろそろ私たちの番です。」
そんな俺を無視するソフィア。
「そうね!大丈夫だと思うけれど、気を付けて行きましょ!」
―まあいいか
そんなこんなで、俺たちはダンジョン内へ入って行った。
「わあ・・・。」
ラズリーが思わずといった様子で声をあげる。
ダンジョン内部は発光草の光でうっすら明かりが灯っているような状態で、一見するとかなり幻想的な光景にも見えるのである。
ただ、魔眼を使用しない状態では少し先が見えにくい状態であるので、俺は先頭に立ってカンテラを灯す。
「そんなもの、持ってきてたの?」
ラズリーが俺に聞いてくる。
「ああ。念のためな。」
発光草があるとはいえ、実際にダンジョン内部の明るさが分からないので、カンテラを持ってきていた。
周囲にはアルトリウスの学院生がちらほら見えた。
ちなみに、学院生たちは、俺やルディのような例外があるとはいえ、皆魔法のエキスパートである。単体でもこのダンジョンで出てくるゴブリン程度であれば充分に対応可能であり、かつそれぞれ護衛も付いているので、ほとんど危険はないといえた。
ハーヴェルに関しては、護衛が付かずにダンジョンに潜っているが、護衛のついているプリムとアイリスと行動を共にしているので、護衛の付いている状況と言えるだろうか?
―きっと、あいつには護衛など必要ないだろうが
「ラズリー、付いて来てるか?」
俺は後ろを振り返る。
「もちろんよ!」
後ろから短い返事が返ってきた。
ちなみに俺が先頭に立っているのは、あくまでもカンテラ持ちとしての役割があるからである。
今回のダンジョン探索の目的はあくまでも学院生のためのダンジョン探索であるので、ゴブリンなどが現れた場合、それを倒すのは原則として学院生の役割である。そして、魔物が現れた場合、ラズリーに戦ってもらうということになっている。
俺も学院生であるが、参加の形態はラズリーの護衛である。そのため事前に、合同探索中に余程のことがない限りは、俺やソフィアではなくラズリーが魔物に対処するという取り決めをしていた。
もっとも、カンテラ持ちとして先頭に立つことができるのはある意味で都合がよい。探索中に何気なく、例のイベントが起きる場所に通じる通路を確認しておくつもりだ。
「―アイスランス!」
ラズリーが短く魔法を唱える!
「グギャ!!」
ふいに現れたゴブリンをアイスランスが貫いて、魔石だけを残してゴブリンは消えた。