13話
「ね、イシュバーン。お話しよう?」
そう言ってきたのはラズリーだった。
―お話。何の?
魔法についてだろうか、あるいは最近始まった剣術の訓練についてだろうか?
俺がフルーツミックスを手渡すと、ラズリーがにっこりと笑ってそんなことを言った。
おそらく、きっと明日のプランについてだろうか。・・・もしかしてダンジョンの攻略についてまで考えているのかもしれない。
俺はルディのイベントで頭がいっぱいで、ダンジョンそのものの攻略についてまでは考えていなかった。
確かに、一気に攻略まで突き進むことも選択肢の一つではある。そのためにはやはりルディのイベントが起きる場所を経由しなければならない。
「明日のダンジョン攻略についてか?」
真顔でラズリーに言う。
「―はあ?」
素っ頓狂な声を上げたと思ったら、可愛い顔を歪ませて、
「―どうして、ダンジョン攻略について話をしなきゃいけないのよ!」
急におこである。ラズリーの部屋に彼女の甲高い声が響く。
―ん?ちょっと訳が分からない。それ以外に何かあるのか?
「ちょっと待て、ラズリー。一体何について話合うというんだ?」
「・・・お嬢様。この朴念仁は、お嬢様のお話を、何かの作戦会議か、あるいは何かの議論か、きっとそういう類のものと考えているのでしょう。」
ラズリーはソフィアを見て言い、
「何それ、今どき騎士学院の学生でもそんなこと考えないわよ?」
そしてこちらを見て
「・・・」
無言になる。
「―違うのか?」
「あ、うん・・・。違うの・・・。」
とても複雑な表情をするラズリー。
「ちなみにイシュバーン様は、何について話合おうとお考えでしたか?」
ソフィアがため息をつきながら聞いてくる。
「――明日のダンジョン攻略について。不可能ではないが、その場合、お前たちを危険に晒すわけにはいかない。もし攻略するのであれば、悪いが、俺一人でボスまで突入する。それで問題ないか?」
「・・・誰もダンジョン攻略何て考えてないわよ。」
ラズリーががっくりと肩を落とす。そしてこちらをキッと睨んで
「大体ね、ダンジョンに一人で挑むなんて頭がおかしいわ!貴方学校で何を学んできたの!!それとも何!?貴方一人で巨大なダンジョンを制覇できるとでも思っているの!??」
「―可能だ。」
「そうでしょ!?一人でダンジョンを制覇するなんて誰も・・・。―え?」
「だから可能だ。あのダンジョンに限っての話だが。」
あのダンジョンに限っては、出現するおよその敵および大体のマップ、フロアボスまでの道、そしてダンジョンマスターについて、攻略に必要な情報は既にある。
ルディのイベントの起きる場所とは異なる道を進むことになるが、あのダンジョンのダンジョンマスターであれば、俺の迅雷で始末することが可能である。
「・・・ソフィー。そんなことってあるのかしら?」
「いいえ、お嬢様。単独で、しかも一晩でダンジョンを制覇したとなれば、そのような存在はさすがに神殿が放っておきません。勇者か魔王ぐらいのものでしょう。」
「・・・そうよね?」
ラズリーは少し混乱しているように見えた。
「ダンジョン攻略でなければ、何について話すというんだ?」
詳細をわざわざ説明するのは面倒である。
「・・・朴念仁。いいですか?このような場合は、例えば、ジュースが美味しかったであるとか、料理まだ来ないね、何を頼んだの?であるとかそういったとりとめのないことを話すのです。」
「そんなことをして一体何になるんだ?」
「――もういいわ。何だか疲れちゃった。・・・それに少しお話できたし。」
ラズリーはまた肩を落としてそんなことを言う。
すると、コンコンとノックの音が聞こえる。
「ルームサービスをお持ち致しました。」
女性の声である。おそらくは宿の従業員のメイドだろう。
「私が出ます。」
そう言うと、ソフィアが扉の所まで行き、こちらに料理を持ってきたのだった。