7話
「なあ、イシュバーン。おまえは合同演習に参加すんの?」
翌日、いつもの屋上でいつものサンドイッチを食べながらルディが俺に聞いてくる。合同演習とは合同ダンジョン探索のことだろう。
「―ああ、一応な?」
当然、今回の合同ダンジョン探索には参加するつもりである。
「自由参加だから、てっきり参加しないのかと思っていたぜ?」
「おそらくラズリーも参加するからな。護衛を任されている以上は参加するさ。」
「まだ続けていたのか、それ。ラズリー様もどういうつもりなんだろうな?」
そう言うと、サンドイッチを一口食べるルディ。
「さあな?だが、特に期限があるわけではないからな。賃金は貰っているわけだし、俺の方から断る理由はないぜ。」
「ラズリー様も物好きだなあ。」
「おい、ルディ、そりゃどういう意味だ?」
ラズリーに迷惑をかけているといったことはないはずである。
「そりゃ、イシュバーン。おまえなんかに目をかける手間を考えればなあ。でもラズリー様からしたら、珍獣に餌をやる感覚なんだろう、ってみんな言ってるぜ?」
「なんだ?俺はさながら、ゴリラかチンパンジーか、ってかよ?」
まったく、ルディには今度模擬戦をすることがあれば、再びチョップをお見舞いしてやるしかないな。
「ゴリラ?チンパンジー??何の話だ?」
「・・・こっちの話だ。」
俺はそう言ってホットサンドに齧りつく。
ゴリラもチンパンジーもこちらには存在しない。もしかすると、魔物の中には似たようなものもいるかもしれないが。
「なんだそりゃあ?」
ルディはハテナを浮かべてサンドイッチを頬張る。
「ところで、今回の合同ダンジョン探索には俺の弟も参加するそうだ。」
面倒なので話題を変えることにする。
「イシュト様が?へえ~、さすがはイシュト様!」
「ルディは参加するのか?お前の婚約者のエミリーも参加するんだろう?」
「それな。エミリーに何かあっては困るから、俺も参加するよ。」
もぐもぐとサンドイッチを食べながら言うルディ。
―まったく、呑気なものだな
「ちなみに、ヒューヴァの妹のローズも参加するらしいぜ?」
「そういや、ローズ様はイシュト様の婚約者だったな?」
ルディはヒューヴァには敬語を使用しないが、ローズには敬語を使用するのか。
「・・・ルディの敬語を使う基準って何なんだ?」
基本的に上位貴族に対しては敬語で呼ぶようだが、少し気になったので聞いてみることにした。
「そりゃ、基本的に俺の家よりも上位の貴族に対しては敬語を使うさ。だが、ヒューヴァとはそれなりに話すし、イシュバーンに敬語を使うやつなんてこの学院にいないからなあ。」
「しかし、イシュトに様付けとは。イシュトも出世したものだ。」
「イシュト様はヘイム侯爵家の次期当主だから当然だぜ?それに、誰かと違って、かなりの実力者という話だからなあ。」
「親父も惚れ込んでいるよ。―やれやれだぜ。」
おかげで俺はかなり自由にできるので、よしとしよう。
「・・・俺もエミリーに負けないように頑張んないとなあ。」
ルディがぽつりと呟く。
「―ルディ。もしもだ。ダンジョン探索中にエミリーが危険な目に遭ったとしたらどうする?」
「そんなの決まっているじゃないか。飛んで助けに行くさ。」
「では、その敵がルディの実力では到底かなわないような相手であった場合は?」
「・・・そのときは、エミリーを連れて一緒に逃げるさ。」
―それができるのならば、最も良い選択だろうな
「・・・・・・」
俺はしばらく考える。
「どうしたんだ?イシュバーン。急に黙って。」
ルディはサンドイッチを食べ終える。
「・・・いや、何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ。」




