5話
「なあ、聞いてくれよ、プリム。イシュバーンが―」
ルディが口を開いたときのことである。
「まいった!まいった!!」
男の大きな声が聞こえてきた。
見ると、ヒューヴァが肩で息をしながら、跪いている。
訓練場にいた皆がその様子に注目する。皆が注目したのは、ヒューヴァではなく―
ゆっくり剣を降ろすハーヴェルだった。
ハーヴェルとヒューヴァの模擬戦を見ていたわけではなかったが、その様子からして、ハーヴェルがヒューヴァを圧倒したのは明らかだろう。
「なあ、プリム。ハーヴェルのやつ、また強くなってないか?」
ルディが言う。
「そうね。きっとこの学院で彼に勝てる人はいないんじゃないかな?」
「・・・ハーヴェルの奴、前の魔法学院対抗戦で敗北したのがよほど堪えたか。」
俺は肩で息をしているヒューヴァの様子を観察しながら言う。
「失礼ね!もしイシュバーンが試合に出てたら、きっともっと酷い結果になっていたわよ。」
口を尖らせるプリム。
ふと、殺気を感じて見ると、アイリスがこちらを思い切り睨みつけていた。
―くわばら、くわばら
「そういえば、プリム、どうしたっていうんだ?」
確か、ペアを替わるだの何だのという話だったような気がする。
「そうそう!アイリス、私とペアを交替しましょ。その様子だと訓練どころではないでしょ?」
「―そう。許可が出たのね。よかった。プリム、とても有難いわ。」
ほっとした様子のアイリス。
それは俺にとっても朗報である。以前はアイリスも俺のことなど、もはや相手にもしなかった気がするが、今回はやけに突っ掛かってきて非常にやっかいに感じていた。
「そういうわけで、イシュバーン、私とだからね?」
プリムが元気よく言う。
「―やれやれだ。」
「おい、イシュバーン。相手がプリムだって舐めていたら大変だぜ?」
ルディが言う。
「そういや、さっきまで地面に突き刺さっていた男がいたな?」
俺はニヤリと笑う。
「ひど!?」
ルディはショックを受けたようだ。
「―冗談だ。プリムよ。俺は、このルディよりも強いぞ?」
そう言って剣を持つ。
「え?何それ??そんな自信満々で言うことなの??」
プリムはとても困惑しているようだ。
「プリム。こいつはこういうやつなの。なんせこれまでハッタリだけで生きてきたようなペテン師よ。妙な技を使うみたいだけれど、真面に相手をしちゃダメよ。」
アイリスがプリムに言った。
―余計なことを
しかし、アイリスやプリムがハーヴェルと共に鍛えており、現段階ではルディをも凌ぐのである。そのプリムを俺が剣の実力で上回るとは考え難い。
「・・・みんな、俺の扱いが酷いんだ・・・。本来なら、俺の方がイシュバーンより強いのに・・・。」
ルディがいじけてしまう。
「ルディ、元気を出して。私と訓練しましょう?」
アイリスがルディに手を差し伸べる。
「アイリス・・・。」
その手を握るルディ。
―おい、ルディ、おまえにはエミリーがいるのではないか?
さすがにチョロ過ぎると思うのだが、どうなのか?
そうして、アイリスに引っ張られながら、ルディは向こうに行ってしまった。
「・・・あいつは大丈夫なのか?」
「心配しなくても、アイリスならルディなんかに負けないわよ。」
呆れた様子で言うプリム。
「―いや、そうではなくてだな。」
俺はアイリスではなく、ルディの心配をしているのである。
「それじゃ、どういうこと?」
「・・・なんでもない。いいから、剣の訓練をするぞ?」
―俺がそう言ったとき。
「今日の実技はここまでとする。君たちの中には、既にかなりの上級者もいるようだが・・・。」
そう言うと、担当の教師はハーヴェルを見る。
「次回からはより基礎的な訓練をするからな。この後、合同ダンジョン探索について説明することにする。」
今回の剣の実技はここまでとなった。




