17話
―さて、今日はもう帰ろうか。
家に戻ろうとした、ちょうどその時だった。
ふいにズル、ズルとなにかを引きずるような音が聞こえてくる。
そして、パキパキッという音。間違いない、何かが近づいて来る―!
ここからでは周囲の様子が分からない!何かの異変が起きていることに気が付いた瞬間、目を閉じ、先ほど覚えたてのレーダーを使用する。
ぼやっと浮かび上がってきたのは大きなトカゲ。―あれは、サラマンダーか。
大きな声を出したのが悪かったか、あるいはボアの肉の匂いに釣られたか、あるいはその両方か。
これがもしフレイムサラマンダーであれば、パーティーを組まなければ倒すことができない後半のボスであるから逃げの一択であるが、通常のサラマンダーならば、ここで戦闘するのはよい経験になるだろう。
果たして、姿を現したのは、炎を纏ってはいない、通常のサラマンダーである。
―ちょうどいい、ジンライの訓練をしたかったところだ。
ちなみに、通常のサラマンダーでもボアなんかとは比べものにならないくらいの脅威度ではある。だが、不思議と今の俺であれば、サラマンダー相手ならば十分に戦うことができるという確信のようなものがあった。
―先手必勝!
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。唸れ!サンダーボルト!」
今はまだ距離がある。
バチバチッという音がし、サラマンダーに電撃が直撃する。
シュウウという音を立てながら、一瞬サラマンダーの動きが止まる。そしてこちらをギロリと睨んでくる。
―さすがにボアのように一発で仕留めることはできないか。
俺はその隙に、目を閉じ、レーダーを使用し、着地点を定める。
―狙う先はサラマンダーの脇腹!!
「ジンライ!」
バリバリッと身体を雷が覆い、
―バシュッ
移動の着地と、その脇腹に拳を繰り出すことを同時に行う!!!
ズドンッ
気が付いたときにはサラマンダーの脇腹に大きな穴が開いていた。
俺の方にも反動はわずかにあるが、それほどではない。
ズズゥンっと倒れるサラマンダー。勝負は一瞬だった。
―あまりのことに言葉が出ない。
しばらく拳を突き抜いた形で硬直する。
何となく、勝てるだろうなとは思っていたが、こんな風になるとは思ってもみなかった。
・・・一撃必殺とはこのことか。
「これは余程のことがない限り、人相手には使用することはできないな。」
しばらくして身体の硬直が解ける。
サラマンダーの肉って食えるんだっけ?
かつての地球では、トカゲの肉も食えるみたいだったし、持って帰ろうか?
倒れたサラマンダーを見ると、腹には大きな穴が開いており、その部分の肉は持って帰れそうにない。
そこで、足と尻尾、そして胸の一部の肉を切り分けようとする。
しかし、外皮がなかなかに硬いのである。短剣が通りにくい。
―どうしたもんかな?
ふと、ルディがゴーレムに魔力を注ぎ続け、それを動かした場面が思い浮かんだ。
魔力をものに注ぎ続けることができれば、土人形ですら操作することができるのだ。
俺にも同じことができないだろうか?
そんなことを思いつき、既に使い古した感じのある自分の短剣に魔力を通してみる。
バリバリバリッと雷が小刀を覆う。
―これは、ジンライほどではないが、かなり魔力を食うな。
急いでサラマンダーの足の肉を切り分ける。しかし、ちょうど左の後ろ脚を1本だけ切り分けたところで、魔力が尽きた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ。」
落ち着いて、マナポーションを取り出し、1本ほど飲む。前に飲んだときからは充分時間が経過しているから問題ないはずだ。
よし。気を取り直して、今度は尻尾の肉だ。
同じように短剣に魔力を通し、電気を帯びた短剣で今度はサラマンダーの尻尾を切り分けていく。
サラマンダーの尻尾を切り分け、今度は右の後ろ脚を切り分けたところで、魔力が尽きた。
いくつか持ってきたズタ袋ももう満杯だ。これ以上は持ち帰ることはできないか。
少しもったいない気がするが、時間ももう遅いことだし、一旦この肉は放置して、明日の朝また来てみよう。
そう考え、今度こそ、家に帰るのだった。




