4話
「はああああああああ!」
アイリスは思い切りよく剣を振るう!
「やるな!だが!」
――ガシッ
アイリスの剣を受け止める!
―いける!ルディの剣より軽い!
そのままアイリスと鍔迫り合いの形になる。
―あれ、ここからどうすりゃいいんだっけ?
とにかく距離をとろう!
俺がアイリスを離そうと剣で強く押し出そうとした次の瞬間!
――ひょいっ
アイリスが剣を後ろに引きやがった!
「―おわっ!!!」
俺はそのまま前につんのめってしまう。
そして
振り返ると、剣をこちらに向けたアイリスがいた。
「―勝負ありね。」
ふんっと鼻を鳴らすアイリス。
「ちっ。やるじゃあないか。」
鍔迫り合いになったときにどうするべきか、ということについては未だ誰にも教わっていない。
「イシュバーン、それはもっと剣を上達した人が言うセリフよ。」
アイリスがこちらを睨みながら言う。
「はいはい。俺はどうせ初心者だよ。」
こういったやり取りはこれまでにうんざりするほど繰り返して来たのだ。
「―あなた、今まで何をしていたのよ?」
「何って。息を吸って、吐いて、生きて来たんだぜ?」
もはやこうなってしまっては、会話を切り上げる他ない。
「・・・本当、あなたのそういう態度、ムカツクわ。」
「―何を言うか。人が息を吸って、吐いて、生きるということは何と素晴らしい事だろう?」
と、そこまで言って、しまったと思う。つい癖で、売り言葉に買い言葉をしてしまった。
「―確かに素晴らしいわね?でもあなたができることは息を吸って吐く以外にはないでしょう?」
嘲るような顔をするアイリス。
「つまらん女だ。貴様も俺も同じようなものだというのに。」
「―なんですって!?」
「―はいはい、お二人さん、そーこーまーで!」
いつの間にかプリムがこちらに来ていた。
「―プリムか。ルディはどうした?」
「ルディなら、あっちにいるわ。」
プリムの指さした方を見ると、ルディが泥だらけになっていた。きっと突っ込んだところをプリムにあっさり躱されたのだろう。
「アイリス、大丈夫?」
プリムが心配そうにアイリスに声をかける。
「ええ。大丈夫よ、問題ないわ。」
こちらを睨みながら問題ないと言うアイリス。
「アイリス、やっぱりペアを替わった方がいいと思う。わたし、先生に言ってみる!」
そう言うと、プリムは講師の元まで走って行った。
「・・・ごめんね、プリム。」
ぽつりとアイリスが呟く。
俺が何かアイリスに言うと、更に逆上させそうであるので、今回は黙っておくことにする。
「よぉ、イシュバーン・・・。」
さっきまで地面につんのめっていたルディがこちらに来ていた。
「・・・おまえは何故そんな泥だらけなんだ?」
何があったかおよそ予想がつくが、とりあえず本人に確認してみることにする。
「プリムの野郎、俺の剣を避けやがった!」
俺の予想通りの答えがルディから返ってきた。
「・・・ボアのように突っ込むのが悪い。」
「イシュバーンはちゃんと剣で受けたのに?」
ルディがきょとんとした顔で言う。
「そりゃ、剣を避けてしまっては訓練にならんからな。」
「その割には妙な技を使うじゃないか!」
ルディが文句を言う。
「妙な技?」
その言葉にアイリスが反応する。
―ルディのやつめ、また面倒なことを!
「ああ、アイリスか、聞いてくれよ。この前、剣の訓練中にイシュバーンは何か妙な技を使ったんだ!」
「だから、あれはただのチョップだったと言っているだろう?」
もうこの会話は百万回くらい繰り返した気がする。
「ただのチョップで俺が気絶するもんか!」
「だが、確かにお前は俺のチョップで気絶したんだ。」
俺は事実をありのままに言っているだけにすぎない。
「チョップで・・・。気絶?」
アイリスが少し考えるように言う。
「そうだ。」
その通りだとも。
すると、
「お待たせ!大丈夫みたい!ってあれ、ルディ?どうしたの?」
こちらに戻ってきたプリムがそんなことを言うのだった。




