3話
「そういえば、ハーヴェルのやつは剣の実技班は誰と組むんだ?」
「ハーヴェルはヒューヴァとらしいぜ?何でも、今は物凄く剣術を鍛えているんだとか。」
ルディが答える。
「―そいつはおっかねえな?」
前回の敗北がよほど堪えたのだろう。しかし、ハーヴェルはきっとこれからメキメキと実力をつけていくはずだ。
「プリムも、アイリスもハーヴェルに追いつけ、追い越せで、とても成長しているんだとか?」
ルディがそんなことを言う。
―その展開も知っている
「・・・俺だって負けはしないんだ。」
ルディは何かを決意したかのように、一人呟く。
「―なあ、イシュバーン。皆それぞれに鍛えているんだ。何もしないと本当に置いていかれるぜ?」
―それは痛いほど分かっている
俺には迅雷も、雷切もあるが、未だ俺は俺の目指すべきところに到達したとは言い難い。
「―俺もまだまだだな。」
見れば、ルディが驚いたような顔をしていた。
「・・・なんだ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。」
「いや・・・。正直、イシュバーンからそんな殊勝な言葉が出るとは思わなかった。」
「まったく。お前は俺を何だと思っているんだ?」
「・・・ナマケモノ?」
ナマケモノって、あのやけに動きの遅い謎の進化を遂げた生き物か。ってなんでやねん!
だが、ついつい鍛錬をサボってしまうことがあることも事実だ。
「しょうがないじゃあないか。人間とはそういう生き物なんだ。」
―つまりまだまだ、伸びしろがあるということだ
こじつけではあるが、実際に俺は、俺自身をまだまだ鍛えていけると感じている。
――雷切にしても、最初は短剣を作成するのに一分程度かかっていたしな
「・・・ラズリー様はこんなやつのどこがいいんだろうなあ。」
呆れたようにルディが言うのだった。
さて、実はその剣の実技の初回がこの後すぐに行われる。
普段はローブを着て魔法を訓練しているやつらが、今日は運動着を身に着け剣を使うのである。
―もしかすると、思いもよらぬ剣術使いがいるかもしれない
「まあ、ラズリーは見る目があるということだな。」
今は彼女からは高評価を得ていることは間違いないと思うが、これから周囲が、何よりもラズリー自身が成長し出すと、その評価がどうなるか分かったものではない。
故に、俺は本当の意味で鍛錬を怠けることはできないのだ。
―伸びしろがあることは良いことだが、鍛錬しても鍛錬してもキリがないな
「そろそろ、行こうぜ!」
ルディが立ち上がる。
「―そうだな。」
俺とルディはクラスルームに戻ることにした。着替えをして、向かう先は剣術場である。
「――では、あらかじめ配布しておいた実技班に分かれてくれ。」
担当の講師が言う。
アイリスを探すと、謎に近寄り難いオーラを放っているのが分かった。
「本当に、なんでこんなやつと組まなければいけないのかしら・・・。」
ため息交じりに言うアイリス。
「俺に言うなよ。俺が決めたんじゃあない。」
「喋らないで。あなたの言葉を聞くたびに気分が悪くなるわ。」
「―それは悪うござんしたね。」
誰がどういう意図でこの班分けにしたのかは分からないが、随分と悪趣味なことをする、という点では俺もアイリスと同じ意見だった。
「では、まずは互いに自由に模擬戦を行ってくれ。とはいえ、スペースの制約もある。他の生徒と衝突しないようにしてくれ。これも訓練のうちだ。」
担当の講師が続ける。
―アイリスと模擬戦か
アイリスもハーヴェルのパーティメンバーである。気が抜けない。
俺はアイリスを見ると、既にアイリスはロングソードの模造剣を構えていた。
「さっさと構えなさい。」
静かにアイリスが言う。
―やれやれだ
俺も剣を構える。
「―それでいいのよ。」
その次の瞬間、アイリスが大きく踏み込んできた!




