2話
「それで、何の用なんだよ?」
「剣の実技班、ちゃんと見てる?」
「―無論だ。」
もちろん、全く目を通していない。
「それがどうかしたっていうんだ?」
ルディがプリムに訊ねる。
「じゃあ、あなたたちの班の最初の演習相手は誰か分かる?」
「そもそも、誰かと班を組むことになるのか?」
俺は誰と班を組むのかすら知らない。
「イシュバーン・・・。あなた、さっき自信満々で無論だと言ってなかった?」
プリムが呆れたように言う。
「無論、見ていないの、無論だ。」
「―いちいち紛らわしいのよ。イシュバーン、貴方と組む相手は私よ。」
アイリスが氷のような目で俺を見る。
―なんてこった
この世でアイリスよりも俺を嫌う人物はいないといえる。そんな相手と俺は剣の実技をやるのか。
「・・・変更は効かんのか?」
なんだかその組み合わせだけはよろしくない気がしてならない。
「無理よ。私、ついさっきまで異議申し立てをしていたのよ。」
アイリスが言う。どうやら、班の構成について既にアイリスから異議申し立てがあり、却下されたようだ。
「ちなみに、俺の相手はプリムなんだ。」
ルディはちゃんと自分の実技の班を把握していたらしい。
「お前も災難だな、ルディ。」
「ちょっと!それどういう意味!?」
プリムが口を尖らせる。
「イシュバーン。貴方、剣の訓練はちゃんとしてきたの?」
アイリスが俺に聞いてくる。
「そうだな・・・。素人ではないとだけ、言っておこう。」
俺は遠い目をして言う。
「―これは期待できないわね、アイリス。」
プリムがまたしても呆れた様子で言う。
「最初からこんな奴に期待なんてしないわ、プリム。」
アイリスが冷たく言い放つ。
それだけ言ってプリムとアイリスは戻って行った。
「・・・何しに来たんだ、あいつらは。」
まだプリムはいい。アイリスときたら、いつも嫌味と文句しか言わないので、如何に心が大海原のように広い俺といえども、いい加減うんざりしてきた。
「多分、イシュバーンと組むことになって、文句の一つでも言いたくなったんだろうなあ。」
やれやれといった感じでルディが答える。
「ルディ、お前は余裕なんだな?」
謎の余裕をルディから感じる。
「だってよ、剣だぜ?まだまだエミリーには敵わないけど、最近上達してきたって先生からも褒められているんだぜ?」
どことなくルディは嬉しそうだ。
「・・・チョップで気絶するようではまだまだだぞ?ルディ。」
何となくムカついたので、嫌味を言うことにした。
「あれはおまえが変な技を使うからだろう!?」
「―しかし、アイリスとか。気が重いな・・・。」
いや本当に。
「それはきっと向こうも同じことを考えていると思う。」
何故かアイリスに同情するルディである。
「でも何でイシュバーンは、そんなにアイリスに嫌われているんだ?」
ルディが不思議そうに聞く。
―そういえば、何故だろうな???
「うーむ。思い当たることはないな?」
俺は首をかしげる。
「昔、魔法の訓練を一緒にすることもあったが、確か、たまにやる模擬戦ではアイリスに負けっぱなしだったよ。それで訓練を何かと理由を付けてサボりまくっていたんだったっけか? そのせいでアイリス一人、魔法をメキメキ上達させていったのだけは覚えている。」
だが、その程度であれだけ嫌うものだろうか?
「・・・イシュバーン。婚約者とせっかく一緒に訓練できるのに、それをサボるやつがいるか?俺だったらエミリーと喜んで一緒に剣の訓練をするぞ?ああ、可哀想なアイリス!」
真剣な顔でルディが言う。
「――何だよ、やけにアイリスの肩を持つじゃあないか、ルディ。」
「当たり前だ!俺はおまえがどういう神経をしているのか知りたいよ・・・。」
「よし、ならば今度アイリスに一緒に魔法の訓練をしようと誘ってみよう。」
そんなことでアイリスの機嫌が直るのであれば、その程度朝飯前だ。
「・・・アイリスが嫌う理由がよく分かったよ・・・。」
ルディが頭を抱えるのだった。




