1話
今日も今日とていつもの屋上である。
「なあ、イシュバーン。この前のあれ、結局何だったんだ?」
いつものようにサンドウィッチを食べながら、ルディが言う。
―この前のあれ?
ああ、あのチョップのことか。
「あんなもの、ただのチョップだ。」
既に何度か目の回答である。俺はホットサンドを一口食べる。
「ちゃんとおまえに当たったと思ったんだけどなあ。おかしいなあ。」
ルディは考え込むようにして言う。
「大体、何らかの術を使うのであれば、ルディは今ごろ消し炭になっている。基本、俺は手加減できないからな。」
実はこの課題もまだ残存している。魔力を使用する場合、通常より強めることはできても、通常より弱めることが何故かできないのである。
「おいおい、それはサンダーボルトしか使えないやつが言うセリフじゃないぜ?」
確かに、ルディに見せたことのある魔法はサンダーボルトしかない。他に魔法が使用できないわけではないが、「魔法」という観点では、そもそも俺の技はそのほとんどがオリジナルであるので、正しく魔法を使用しているといえる状態であるかどうかは怪しいところだった。
「俺のサンダーボルトを食らってみるか?」
俺はルディにそう言ってニヤリと笑う。たかがサンダーボルトとはいえ、ボア一頭ぐらいは倒すことのできる威力がある。
「うーん・・・。」
ルディはしばらく考えて
「それも良いかもしれない!」
そう言うと、ポンっと手を叩く。
「おいおい、急にどうしたんだ?」
ルディとしては予想外の行動である。
「だってよ?イシュバーン。このままだと、イシュバーンに負けっぱなしになるじゃないか。イシュバーン、おまえには悪いけど、魔法学院最弱はイシュバーンという話なんだぜ?」
「―はあ?」
さすがに魔法学院最弱ではないと思いたい。
「・・・でも、だとすれば、よく分からないのがラズリー様なんだよなあ。」
ルディは眉間に皺をよせる。
「ラズリーは見る目があるからな。さすがは公爵令嬢だ。」
俺はうんうんと頷く。彼女は見る目があるのだ。
「・・・噂じゃ、ラズリー様はゲテモノ好きという話だぜ?」
ルディはどこか遠い目をしてそんなことを言う。
「―ゲテモノ?」
俺の聞き間違いだろうか?
「ああ、ゲテモノ。」
ルディが大きく頷く。
「・・・誰が?」
「イシュバーンが。」
そう言ってルディは俺を見つめる。
ん???もしかして馬鹿にされてる?
「―ルディ。もしかして馬鹿にしているのか?」
場合によってはもう一度のチョップ不可避である。今度はもっと強く叩いてやらねば。
「待て待て!言い出したのは俺じゃないって!」
ルディは焦ったようにぶんぶん手を振る。
「誰だ、そんなことを言うやつは。」
見つけたら脳天にチョップしてやらんとな。
「知らないけどよお。やっぱ理由もなくラズリー様がイシュバーンなんかと仲良くするわけないよなあ。」
―こいつは何が言いたいんだ?
「イシュバーン、やっぱおまえって強いの?」
「無論だ。この魔法学院最強と言ってもいいはずだ。」
俺は自信を持ってルディに答える。
「・・・最弱候補がどうやったらそんなに自信を持つことができるんだよ?」
ルディは頭を抱える。
「何を言うか。俺は事実を述べたまでだ。」
「・・・はあ。」
そうして、大きなため息をつくルディ。こいつには、ため息のルディという称号を与えてやろう。
「大体、俺が強くなければ、どうやってルディを気絶させたことになるんだ?」
「どうって・・・。チョップで?」
「そうだ。チョップだ。」
そう言って俺はぶんぶんとチョップの素振りをしてみせる。
「そんなバカな・・・!!!」
愕然とするルディ。
―ふふん、やっと現実に目を向けたか
「・・・あんたたち、何やってんの?」
見ると、プリムとアイリスが俺たちを冷ややかな目で見ていた。
「いかに俺のチョップが素晴らしかったのか、ということについてだ。」
俺は得意げになって言う。
「ちがーーーーーーう!!!」
ルディは頭を抱える。
「・・・なんか、相変わらずよね、イシュバーンも、ルディも。」
そんな俺たちの様子を見て、プリムが複雑な顔をするのだった。




