19話
「―こいつはすげえ・・・。」
ゲームの絵で見るのと、実物を目にするのとは大違いだ。壮大な山々が連なる様子にしばし圧倒されてしまう。
「おまえさん、どうやってここまで来たンだべさ?」
ゴンズが訊ねてくる。
「俺か?俺は、ダンジョンを潜り抜けて来たんだ。」
そう言って、来た道を振り返る。が、俺の来た道はどこにもなかった。
―そんなはずは!また妙なことに巻き込まれたのか!
念のために魔眼を使用してみると、ちょうど岩壁の中に道が続いているようだった。
―どういうことだ?
俺は道を塞いでいる岩壁に触れてみようとすると、そこだけ岩壁の感触がない。
「・・・どうやら、幻覚の類らしい。」
俺はその壁に触れてみると、手が壁を通り抜けているように見える。
「―何だそりゃあ?」
ゴンズも俺と同じように壁に触れてみると、ゴンズの手も壁を通り抜ける。
「一体全体、どうなってンだ???」
ゴンズが首を傾げる。
「どうやら、幻覚のようなものらしいな。実際には壁がないのに、ここに壁があるように見える。」
―もしかすると、あの滝の裏の道も同じような仕掛けになっているのかもしれない
何となく、そんな気がした。
「なるほどなあ~。オラ、ここには長い事住んでいるが、これは初めて知ったべ。」
ゴンズは感心したように言う。
「ダンジョンの中はそれなりに魔物がいる。中でも、でっかいカタツムリのような魔物は通常の攻撃や魔法をはじく上に、溶解液を出してきやがる。もしダンジョンを抜けるなら、気をつけてくれ。」
「ダンジョンだなんて、恐れ多い!オラたちは冒険者じゃないんだ。せいぜいが、魚の魔物を狩るくらいだべ?」
―魚の魔物か
「そういえば、でかい蛙の魔物を知っているか?ダンジョンの中の滝つぼにいたんだ。」
「カエルの魔物・・・?こんな所ででかいカエルの魔物はいないと思うゾ?」
残念ながら、あれはマーマンでも知らない種類の魔物だったらしい。もしかすると、何らかの原因で、どこにでもいるような小さなカエルの魔物が変異して巨大化したものであるのかもしれない。
だが、カエル。水生の魔物か。俺は良いことを思いつく。
「この辺りでは美味い魚は取れるのか?」
魚なぞ、めったに口にできない。あの森にも川はあるにはあるが、湧き水が少し流れてできたような川で、釣りには適さない。
「もちろんだべ!大中小、色んな美味い魚がここにはいるゾ?魔物ですら美味いんだべ。」
―これは良いことを聞いた!
「俺は、ボアを取ることができるんだ。今度持ってくるから、魚と交換してくれないか?」
そんな提案をしてみることにした。
「ボア!この辺りではほとんど見かけるこたあ、ないナア。よいゾ!オラ、楽しみにしているゾ!」
ゴンズはそう言って大いに頷く。
「ちなみに、ゴンズはこの辺りによくいるのか?持ってきたときに誰に声をかければいいんだ?」
「―そうだべな。オラは見回りであちこち行くから、必ずしもここにいるわけではないナ・・・。ヨシ、こいつを渡しておこう。」
そう言うと、ゴンズは何かを渡してくる。
「・・・何だ、こりゃあ?」
よく分からないが、これはマーマンの鱗だろうか?
「そいつはオラの通行許可証みないなもんだべ。ここに来るときはそれを持ってきてくんな。裏にオラの名前が刻まれているんだべ。ここに来るときにそいつさ見せれば、オラの元に案内されるという仕組みだべ。」
「そういうことか。――では、そうするとしよう。」
俺はマーマンの鱗を持ってきた袋にしまう。
「次はいつぐらいに来るンだ?ボアの肉とくりゃあ、皆喜ぶだろうよ!」
「そうだな。また一月後か、あるいは二月後までにはボアを持ってきたいと思っている。」
「ヨシ。新鮮な魚はちっと時間がかかるが、いつでも取ることができるンだべさ。楽しみにしているからな?」
そう言うと、ゴンズはにしし、と笑う。
「ああ。味は保証できる。とても美味いと好評なんだ。」
そう言って俺もニヤリと笑うのだった。




