18話
そんなことがあって、その後すぐの休日のこと。俺は再び一人、ダンジョンまで来ていた。
剣はまだまだ訓練が足りていないので、ダンジョンに持ってくることはしていない。
道中、巨大なカタツムリに何度か遭遇したが、既に簡単に片づけることができるので、容易に滝のエリアに辿り着くことができた。今回は、前回倒した巨大な蛙は出てこなかった。
―いわゆる中ボスの一種だったのだろうか?
目指すは滝の裏側。俺は水に濡れながら、何とか滝の裏側に行く。
その裏側の一本道を進んでいき、洞穴のような場所から出ると、目の前には水の流れる渓谷が広がっていた。
「――こんな場所が・・・!」
そのとき、ペタ、ペタという足音が聞こえてきた。
―あれは、見たことがあるな?
確か、イシュゼルと同行した際にサハギンと言われていたものだろう。あれも魔物の一種のようだ。
「あのときはイシュゼルが一人で倒していたが、俺もできるはずだ・・・!」
俺は雷切を発動させる!
―だが、本当にあれはサハギンか・・・?何か違う気もする・・・
俺が躊躇していると、
「―誰かいるだべ?」
サハギンが喋った。
―え?
危うく雷切を投擲するところだった!
よく見ると、以前のサハギンよりももっと人間っぽい恰好をしている。あれは何だ?
「・・・すまん、魔物と勘違いしていたようだ。」
俺は物陰から姿を現す。
「おめえ、もしかして攻撃しようとしたか?」
「ああ。以前見た、サハギンという魔物にそっくりだったからな。」
俺が素直にそう言うと、
あちゃあ、という顔をしたそいつは、
「たまにいるんだべ、サハギンと間違うやつが。だからこうやって見回りをしているんだべが、危うくオラが襲われるところだったとは!」
ぶるぶると身震いをする。
「俺はイシュバーンという。お前は?」
「オラはマーマンのゴンズという。マーマンは始めて見るか?」
「ああ。」
いわゆる亜人種というやつだろう。原作では、他に、エルフやフェアリーといった亜人種も、出番はそれほどないが、存在するのだ。
「なら、覚えておいてくんな。マーマンはサハギンとよく似てるンだべが、あんな魚の頭はしていないんだべ。水かきのある手足くらいか?胴体もあんな魚の形はしていないんだべさ。」
ゴンズはマーマンの特徴を言う。
「マーメイドとは異なるのか?」
マーメイドがこの世界にいるのかは知らないが、もしかするといるかもしれない。そう思って俺はゴンズに聞いてみる。
「アイツらは海に存在するンだべさ。それにさ、えらく美しいが、それに惑わされちゃいけねえゾ。歌声を使って船を沈没させるわ、好みの男は取って食うらすいんだべさ。」
ゴンズはひどく物騒なことを言う。
「そいつはおっかねえな・・・。」
素直にそう思う。
「その点、オラたちは基本、無害だべ。だが、いかんせん、サハギンと間違うやつが多いんだべな。とても迷惑しているンダ。温厚なことで有名なオラたちも、襲われると戦かわなくちゃいげねえ。」
温厚なことで有名どころか、俺はその存在も知らなかったが。
「ちなみに、何故ダンジョンの中で暮らしているんだ?」
少し気になっていたことを聞いてみることにした。
「ダンジョンの中だあ?お前さん、ここを一体どこだと思っている?」
ゴンズが妙なことを言う。確かにここはダンジョンの中のはずである。
「どこって・・・。何というかは知らないが、初心者用のダンジョンの中のはずだ。」
「おいおい、そいつは初耳だべさ?ここはアルディン渓谷だべ?」
―どこだそれは?
「どこだそれは?」
俺はそのままゴンズに聞いてみることにする。
「どこって、セレオス山脈の麓だべ?」
セレオス山脈とは、ちょうど俺たちの住まう魔法王国エルドリアの南に聳える厳しい山脈である。山頂にはドラゴンが住まうという話である。
「もしかして、俺はその山をいつの間にか越えていたのか・・・。」
「お前さん、どこから来たべ?」
ゴンズが俺に聞いて来る。
「魔法王国エルドリアだ。」
俺は素直に答える。
「おお・・・。この山を越えて来たのか・・・。そいつは難儀だったろう。」
そう言って、ゴンズは俺の背後を示す。
そこには天を突くような巨大な山々が横たわっていたのだった。




