17話
「・・・は!」
それから少しして、ルディが目を覚ます。
「いてて・・・。一体何が・・・?」
どうやら状況を把握していないようだ。
「ルディ。お前が話を聞かんので、チョップで止めさせてもらった。まったく・・・。ボアのようにただ突っ込んでくるお前が悪いんだぞ。」
俺は少し文句を言ってやることにする。
「チョップで・・・?」
「そうだ。チョップでだ。」
「・・・おい!イシュバーン!あれはチョップなどではなかった!!」
ルディがまた面倒なことを言い出す。もうこいつはエミリーが関わると面倒くさいことこの上ない。
「いや、ただのチョップだ。」
俺は努めて冷静にそのままの事実を言う。
「急に消えたと思ったら、突然背後に現れて・・・!イシュバーン、何か魔法を使っただろう!?」
ほら、面倒なことを言い出す。
エミリーがうんうんと頷くのが横目で見えた。
「なら、何の魔法だとお前は言うんだ?」
俺は逆にルディに聞くことにする。
「それは・・・。」
すると、エミリーと同じようにルディも口ごもる。
「―まあいい。ディーン。すまないが、模擬戦はこれでよいか?」
「え、ええ。少し腑に落ちない事もありますが、ここは剣の訓練場ですからね・・・。」
「はいはい!今度はあたしがやりたい!!」
エミリーが手をあげる。
「エミリー君ですか・・・。イシュバーン君と手合わせをしたいと?」
「はい、先生。あの技を見極めてみたいんです!」
―いや、あれはそもそも剣ではない。わざわざ剣の訓練場でこれ以上使うつもりはないぞ?
「イシュバーン君。構いませんか?」
ディーンがこちらに確認する。
「――いいだろう。」
俺も、エミリーの剣の実力が実際にどんなものか知りたいというのが本音ではあった。
「始め!!」
さきほどと同じように、ディーンの掛け声を合図に、模擬戦が始まる!
静かに剣の切っ先をこちらに向けるエミリー。
―隙が無いな
だが、俺も剣を構えぬわけにはいかないだろう。
「よし、行くぞ・・・!」
俺も新しくディーンに渡された模造剣を構える。
エミリーに動く気配はない。
―ならば!
「はあああ!!」
俺はエミリー目掛けて剣を振りかぶって、そのまま振り下ろす!!
―だが
ひらりと俺の剣を軽やかに躱して、一度振り下ろした剣を下に弾いて、さらに続けて上に剣を振り上げて、俺の剣を手から飛ばした。
すぽーん
俺の手から剣がすっぽ抜けていく。
そして速やかに、俺の首元にすっと静かに剣を当てる。
―まじかよ
剣を吹っ飛ばされたのはハーヴェルのときにも経験しているが、あの時はハーヴェルの力技のような面があった。しかし、先ほどエミリーが行ったものに力を感じることはなかった。
カンっと軽く剣が地面に当たる音が聞こえた。
「―勝負あり!」
ディーンの声が響く。
周囲が少しざわめくのが聞こえた。いつの間にか、俺たちの周りには他の訓練生も集まって来ているようだった。
―やはりエミリーは強い
原作でもそうだったが、素早い動きと、巧みな剣の技術こそ、エミリーの特徴であるのだ。そして、ここでもそれは変わらないようだった。
「―あれ?」
何故かエミリーの驚くような声が聞こえた。
「・・・ねえ。さっきのはどうしたのよ?」
続けて、俺に不満そうな声でそんなことを言った。
「だから、あれは剣ではないからな?」
さすがにご令嬢の頭にチョップを放つことはどうかと思う。
「ええー!あたし、手加減されちゃった??」
「そんなことはない。俺の実力はこんなものだ。」
そう言って俺は吹っ飛ばされた模造剣を取りに行く。
「うそ!絶対手加減したでしょ!?それかやっぱり魔法だったんだ!?」
エミリーも大概面倒くさい性格である。
「エミリー。そこまでにしておきなさい。私にはイシュバーン君が手を抜いたようには見えませんでしたよ。」
ディーンがエミリーをなだめる。
「でも・・・!」
エミリーは納得していない様子だった。




